第9話 貴族を敵に回そう
第9話です。
今回は初めて他領の貴族が登場します。
屋敷、領地、そして貴族社会へと、アルベルトの勘違い劇は少しずつ広がっていきます。
領民まで駄目だった。
こうなれば相手を変えるしかない。
「貴族だ。」
平民ではなく貴族。
あいつらなら、俺の横暴を見れば確実に反感を抱く。
悪役として名を売るなら、まずは同じ貴族社会からだ。
「レオン。」
「はい、坊ちゃま。」
「近くに住む貴族を教えろ。」
「隣領を治めるラングレー子爵家がございます。」
「よし。」
子爵。
男爵より格上だ。
そんな相手に無礼を働けば、確実に嫌われる。
「会いに行く。」
「畏まりました。」
翌日。
俺は数名の騎士を連れ、ラングレー子爵家を訪れた。
広い屋敷の応接室へ案内される。
「これはこれは、アルベルト殿。」
恰幅の良い中年男が笑顔で現れた。
ラングレー子爵だ。
「急な訪問で申し訳ない。」
「気になさらず。」
子爵は笑顔を崩さない。
ならば。
ここからが悪役だ。
「さっそくだが。」
俺は椅子へ深く腰掛け、子爵を見上げる。
「茶がぬるい。」
部屋の空気が止まった。
「…………。」
よし。
これだ。
完全に失礼だ。
「入れ直せ。」
使用人たちが困ったように子爵を見る。
だが子爵は穏やかに笑った。
「申し訳ありません。」
「……。」
「最高の茶葉を使わせていただきます。」
違う。
怒れ。
そこは怒る場面だろ。
新しい紅茶が運ばれてくる。
俺は一口飲んで眉をひそめた。
「普通だな。」
「……。」
「菓子もいまいちだ。」
これだけ言えば怒るはず。
そう思っていた。
「ははは!」
突然、子爵が笑い出した。
「さすがですな。」
「……?」
「噂は本当だった。」
「何の話だ。」
「領民思いの男爵だと聞いていましたが、まさかここまでとは。」
「違う。」
「私を試しておられるのでしょう?」
「試す?」
「贅沢な茶や菓子でもてなすくらいなら、その金を領民へ回せ、と。」
「…………。」
何を言ってるんだ。
「お見事です。」
子爵は立ち上がり、深く頭を下げた。
「私も見習わせていただきます。」
「違う。」
「本日はありがとうございました。」
「だから違う。」
帰り道。
馬車の中で俺は頭を抱えていた。
「……貴族までか。」
レオンが静かに微笑む。
「坊ちゃまのお考えは、多くの貴族へ広まるでしょう。」
「広まらなくていい。」
「きっと王都でも話題になります。」
「最悪だ。」
俺は悪役になりたい。
ただそれだけなのに。
なぜか善人としての評判だけが、どんどん広がっていくのだった。
第9話を読んでいただきありがとうございます!
ついにアルベルトの勘違いは領地の外へも広がり始めました。
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