第10話 傲慢な男爵は舞踏会へ向かう
貴族にまで感謝された。
もう訳が分からない。
「なら。」
もっと多くの貴族が集まる場所へ行けばいい。
悪評は人数が多いほど広まりやすい。
「レオン。」
「はい、坊ちゃま。」
「近いうちに貴族が集まる予定はあるか。」
「ございます。」
「どこだ。」
「王都で春の舞踏会が開かれます。」
舞踏会。
王侯貴族が一堂に集まる社交の場。
最高じゃないか。
そこで横暴に振る舞えば、一日で悪名が王国中へ広まる。
「参加する。」
「承知いたしました。」
レオンは迷いなく頷いた。
「招待状は既に届いております。」
「そうか。」
さすが悪役貴族。
招待されるくらいの立場ではあるらしい。
数日後。
王都へ向かう馬車の中。
窓から見える景色は、領地とは比べ物にならないほど賑わっていた。
「……人が多いな。」
「王都ですから。」
レオンは慣れた様子で答える。
「今日は王族も出席されます。」
「王族も?」
「ええ。」
好都合だ。
王族の前で失礼な態度を取れば、さすがに終わる。
これで悪役街道まっしぐらだ。
やがて馬車は巨大な城の前で止まった。
次々と豪華な馬車が到着し、着飾った貴族たちが降りていく。
「アルベルト・フォン・グランディア男爵様、ご到着です。」
会場へ入った瞬間。
あちこちから視線が集まった。
「……あの方が。」
「噂の。」
「領民思いの男爵様……。」
「…………。」
嫌な予感しかしない。
その時、一人の若い貴族が近づいてきた。
「初めまして。」
二十代前半ほどの青年だ。
「私はハミルトン子爵家の長男、クリスと申します。」
「ああ。」
「ぜひ一度、お話ししたいと思っておりました。」
「断る。」
即答した。
悪役なら愛想よくする必要はない。
しかしクリスは驚くどころか目を輝かせる。
「なるほど……。」
「?」
「媚びる者とは話さないということですね。」
「違う。」
「ますます尊敬いたしました。」
「…………。」
またか。
すると今度は別の貴族。
さらに別の貴族。
気づけば十人近くが俺を囲んでいた。
「男爵様!」
「領地経営についてぜひ!」
「税制改革のお話を!」
「騎士団の鍛え方を!」
「…………。」
なんでだ。
俺は悪役だぞ。
相談相手じゃない。
「レオン。」
「はい。」
「帰る。」
「まだ舞踏会は始まっておりません。」
「もう十分だ。」
これ以上いたら、また勘違いが増える。
そう思った、その時だった。
「王女殿下のおなりです!」
会場中へ声が響いた。
一斉に空気が変わる。
貴族たちは道を開け、入口へ頭を下げた。
「……王女。」
俺も視線を向ける。
豪華なドレスを身に纏った、一人の少女が静かに歩いてきた。
金色の長い髪。
透き通るような青い瞳。
年齢は俺とそう変わらないだろう。
会場中の視線を集めるほど、美しい少女だった。
そして。
王女の視線が、真っ直ぐこちらへ向く。
第10話を読んでいただきありがとうございます!
ついに物語の舞台は王都へ!
そして新たな人物も登場しました。
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