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第89話 悪役なら守った相手に礼を言わせない

 王都防衛模擬戦。


 中央塔前。


 巨大魔物が咆哮する。


「グオオオオオ!!」


 その巨体は。


 通常の魔物を遥かに超える大きさだった。


「無理だ……。」


「一人じゃ止められない!」


 周囲の生徒たちが後退する。


 その前に。


 俺は立っていた。


「……。」


 面倒だ。


 ただ。


 ここを壊されると。


 後始末がさらに面倒になる。


 それだけだ。


 魔物が腕を振り上げる。


 ドォン!


 地面が揺れる。


 俺は片手を上げる。


「……。」


 魔力を集中。


 しかし。


 今回は少しだけ。


 周囲を巻き込まないように。


「消えろ。」


 光が走る。


 次の瞬間。


 巨大魔物は。


 跡形もなく消滅した。


 静寂。


「……。」


「……。」


 観客席。


 実況席。


 全員が言葉を失う。


『大型魔法魔獣』


『撃破確認』


『アルベルト・フォン・グランディア』


『追加防衛点――百点』


 そして。


 順位表が変わる。


『第一位』


『アルベルト・フォン・グランディア』


「また……。」


 俺は空を見る。


「一位。」


 最悪だ。


 目立つ。


 すると。


「男爵様!」


 リリアが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」


「問題ない。」


「でも!」


 リリアは不安そうに俺を見る。


「本当に無茶をしますね。」


「違う。」


「無茶ではない。」


 セレナも歩いてくる。


 珍しく怒った顔だった。


「あなた。」


「何ですか。」


「後方にいると言いましたよね。」


「言った。」


「では。」


「なぜ前へ出たんですか。」


「……。」


 答えに困る。


「必要だったからだ。」


 セレナは黙る。


 そして。


 小さく息を吐いた。


「そういうところです。」


「また。」


「自分のことを後回しにする。」


「違う。」


 そこへ。


 助けた生徒たちが集まってきた。


「男爵様!」


「ありがとうございます!」


「あなたがいなかったら……。」


 俺は手を上げる。


「礼はいらん。」


「え?」


「当然のことをしただけだ。」


 ……。


 しまった。


 言い方を間違えた。


 もっと悪く言うべきだった。


 だが。


 生徒たちの表情は。


 さらに感動したものになっていた。


「当然……。」


「それを本当に言える人なんだ。」


「すごい。」


「……。」


 違う。


 そうじゃない。


 その時。


 王都騎士団のクラウス隊長が姿を現した。


「アルベルト。」


「……。」


「見事だった。」


「騎士団として。」


 真剣な表情。


「礼を言わせてほしい。」


「断る。」


 即答。


 周囲が固まる。


「え?」


「礼はいらない。」


「俺は。」


「ただ邪魔なものを消しただけだ。」


 クラウスは。


 一瞬驚いたあと。


 笑った。


「やはり。」


「君らしい。」


「……。」


 何がだ。


 そして。


 王都中へ放送が響く。


『第三競技』


『防衛成功』


『優勝学院――』


 一拍。


『王立魔法学院』


『代表、アルベルト・フォン・グランディア』


 大歓声。


 俺だけが。


 その中心で。


「……帰りたい。」


 そう思っていた。

第89話を読んでいただきありがとうございます!


第三競技、王都防衛模擬戦の大きな山場でした。


アルベルトは「面倒なものを消しただけ」のつもりですが、その行動は王都全体を救う結果となりました。


そして第三競技もいよいよ決着へ向かいます。

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