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第73話 悪役なら開会式で寝る

 巨大演習場。


 代表者たちは最前列へ並び、観客席には各学院の生徒が座っていた。


 数千人。


 これほどの人数が一か所へ集まるのは初めてだった。


「静粛に。」


 拡声魔法によって声が響く。


 壇上へ一人の老人が姿を現した。


 白いローブ。


 胸には王国紋章。


「王国魔法省長官だ。」


「あの人が?」


「すごい……。」


 周囲がざわつく。


 老人は穏やかに笑った。


「諸君。」


「遠路はるばる王都へようこそ。」


「今年も合同魔法演習を開催できることを嬉しく思う。」


 拍手が起こる。


 そして。


 長い話が始まった。


「魔法とは――」


「歴史とは――」


「未来とは――」


「……。」


 長い。


 眠い。


 悪役なら。


 こんな話は聞かない。


 俺は腕を組み。


 そのまま目を閉じた。


 数分後。


「……すぅ。」


 静かな寝息。


 隣のリリアが慌てる。


「だ、男爵様!?」


「寝てます!」


 王女も目を丸くした。


「こんなところで……。」


 セレナは額へ手を当てる。


「信じられません。」


「魔法省長官のお話ですよ。」


 しかし。


 エリオットだけは微笑んでいた。


「違いますよ。」


「?」


「疲れているのでしょう。」


「交流祭の後、長旅を経てすぐ開会式です。」


「無理もありません。」


「だからって寝ます?」


 セレナが呆れる。


「普通は寝ません。」


 その時だった。


 長官の話が終わる。


「最後に。」


「今年の代表者たちを紹介しよう。」


 代表者が一人ずつ名前を呼ばれていく。


「北部魔法学院代表。」


「南部魔法学院代表。」


「西方魔法学院代表。」


 拍手。


 そして。


「王立魔法学院代表。」


「アルベルト・フォン・グランディア男爵。」


 ……。


 返事がない。


「……。」


「……。」


 会場が静まり返る。


「男爵様!」


 リリアが小声で揺する。


「起きてください!」


「……。」


 起きない。


 セレナが小さく舌打ちする。


「まったく。」


 コツン。


 指で軽く額を弾いた。


「……。」


 俺はゆっくり目を開ける。


「なんだ。」


「呼ばれてます。」


「?」


 壇上を見る。


 全員が俺を見ていた。


「……。」


 仕方ない。


 立ち上がる。


 そして。


「アルベルト・フォン・グランディアだ。」


 一言だけ言って座った。


 会場は一瞬静まり返り。


 次の瞬間。


 大きな拍手が響いた。


「おぉ!」


「堂々としてる!」


「貫禄がある!」


「さすが交流祭の英雄!」


「……。」


 違う。


 寝起きなだけだ。


 長官は満足そうに笑う。


「実に落ち着いている。」


「大物だな。」


「違う。」


 もちろん。


 その声は届かなかった。


 開会式は。


 まだ始まったばかりだった。

第73話を読んでいただきありがとうございます!


今回は開会式でまさかの居眠りをするアルベルトでした。


本人はただ眠かっただけですが、周囲には「大物の余裕」と勘違いされる結果に。


次回からはいよいよ合同魔法演習の説明と最初の競技が始まります!


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