第71話 悪役なら朝食を独り占めする
翌朝。
王都中央魔法学院。
寮の食堂には朝早くから多くの生徒が集まっていた。
「今日から演習か。」
「緊張するな。」
「中央学院の実力、楽しみだ。」
各学院の生徒たちが談笑している。
「……。」
俺は一番奥の席へ座った。
人が少ない場所。
静かでいい。
すると。
「男爵様!」
リリアが笑顔で駆け寄ってくる。
「おはようございます!」
「……。」
隣へ座った。
さらに。
「失礼します。」
王女まで向かいへ座る。
「……。」
静かな席じゃなくなった。
「今日は開会式ですね!」
「興味ない。」
「ふふっ。」
笑われた。
その時。
料理が運ばれてきた。
焼きたてのパン。
卵料理。
ベーコン。
スープ。
果物。
「美味しそうですね!」
リリアが目を輝かせる。
「……。」
なら。
悪役らしく。
全部取る。
俺は近くにあったパン籠を持ち上げた。
そのまま自分の前へ置く。
「!」
周囲がざわつく。
「あ……。」
「全部持ってった。」
「男爵様?」
リリアが首を傾げる。
「……。」
よし。
これで嫌われる。
しかし。
俺は一つだけパンを取り。
残りの籠を食堂の入口へ持っていく。
「?」
入口には。
料理が届く前に並んでいる一年生たちがいた。
「食え。」
籠を置く。
「え?」
「先に食え。」
「でも……。」
「早くしろ。」
「は、はい!」
一年生たちは嬉しそうにパンを受け取る。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「……。」
違う。
席が狭かっただけだ。
すると。
後ろから拍手が聞こえた。
パチ、パチ、パチ。
振り返る。
エリオットだった。
「さすがですね。」
「違う。」
「自分より後輩を優先する。」
「立派な先輩です。」
「違う。」
リリアも頬を緩める。
「やっぱり男爵様です!」
王女も微笑む。
「自然とそういう行動ができる方なのですね。」
「違う。」
その時。
「……。」
セレナが無言で近付いてきた。
「なんだ。」
「これ。」
一枚の紙を差し出してくる。
「?」
受け取る。
『本日 合同魔法演習 開会式
代表者は開始十分前までに訓練場へ集合』
「代表だけです。」
セレナが淡々と言う。
「遅刻しないでください。」
「しない。」
「本当ですか?」
「する理由がない。」
「……。」
セレナは少しだけ考える。
「あなた。」
「逃げそうなので。」
「信用できません。」
「……。」
その一言に。
リリアが思わず吹き出した。
「ぷっ。」
「ふふふっ。」
王女も口元を押さえて笑う。
「確かに。」
「昨日も逃げようとしていましたね。」
「違う。」
「違いません。」
珍しく。
セレナが即座に言い返した。
「裏門へ行っていました。」
「……。」
バレていた。
食堂中から笑い声が広がる。
「ははは!」
「副会長に一本取られたな!」
「男爵様でも言い返せないことあるんだ。」
「……。」
初めてだった。
俺が。
言い返せなかったのは。
その様子を見たセレナは。
ほんの少しだけ。
笑っていた。
第71話を読んでいただきありがとうございます!
今回は王都で迎える最初の朝と、セレナとの少しずつ変わっていく関係を描きました。
敵意だけだった二人のやり取りにも、少しずつ変化の兆しが見え始めます。
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