第70話 悪役なら歓迎会をぶち壊す
王都中央魔法学院・大食堂。
天井には巨大なシャンデリア。
長いテーブルには豪華な料理が並び、生徒たちの歓声が響いていた。
「すごい……。」
「こんなの初めて見た!」
「肉ばっかりだ!」
地方学院の生徒たちは目を輝かせている。
エリオットが前へ出た。
「皆さん。」
「本日は合同魔法演習へ参加してくださり、ありがとうございます。」
「まずは歓迎会を楽しんでください。」
大きな拍手が起こる。
「乾杯!」
「乾杯ー!」
会場は一気に賑やかになった。
「……。」
俺は料理を眺める。
豪華すぎる。
なら。
悪役らしく。
歓迎会を台無しにしてやろう。
俺はテーブルの一番大きな皿を持ち上げた。
周囲がざわつく。
「男爵様?」
リリアが首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「全部。」
俺は皿を見ながら言う。
「片付ける。」
「え?」
そのまま料理を持って歩き始めた。
「ちょっ!」
「男爵様!?」
生徒たちが慌てる。
よし。
これで歓迎会は終わりだ。
しかし。
俺が向かった先は。
会場の隅。
料理の前で遠慮している使用人たちだった。
「……食え。」
「え?」
年配の使用人が固まる。
「俺はいらん。」
「お前たちが食え。」
「ですが……。」
「命令だ。」
静まり返る会場。
使用人たちは顔を見合わせる。
「本当に……?」
「冷める前に食え。」
「……。」
一人の若い使用人が恐る恐る口に運ぶ。
「……おいしい。」
その一言をきっかけに。
他の使用人たちも頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「こんなことは初めてです!」
「……。」
違う。
俺は料理を減らしたかっただけだ。
エリオットは静かに笑った。
「なるほど。」
「会長?」
隣の生徒が尋ねる。
「貴族の宴では。」
「使用人は料理を運ぶだけで、同じ食事を口にすることはほとんどありません。」
「彼はそれを見抜いたのでしょう。」
「違う。」
リリアは感動していた。
「男爵様……。」
「そんなところまで見てたんですね。」
「違う。」
王女も優しく微笑む。
「本当に素敵なお考えです。」
「違う。」
その時。
セレナが近付いてきた。
「……。」
じっと俺を見る。
「なんだ。」
「あなた。」
少しだけ表情を緩める。
「……変な人ですね。」
「悪口か。」
「半分は。」
「そうか。」
セレナは小さくため息をついた。
「普通の貴族なら。」
「使用人へ料理を譲ることなんてしません。」
「興味ない。」
「だからですよ。」
「?」
「そういうところが……。」
そこまで言って。
セレナは口を閉じた。
「いえ。」
「忘れてください。」
そのまま踵を返して歩いていく。
後ろ姿を見送りながら。
リリアがニヤニヤしていた。
「男爵様。」
「なんだ。」
「副会長さん。」
「少し男爵様を見る目が変わりましたね。」
「気のせいだ。」
「ふふっ。」
王女も微笑む。
「そのうち仲良くなれそうですね。」
「ならん。」
俺は即答した。
嫌われるために来たんだ。
仲良くなる気など、一切ない。
しかし。
食堂の二階。
手すりからその様子を見ていた一人の教師が、小さく笑う。
「面白い。」
「今年の合同魔法演習は。」
「例年以上に荒れそうですね。」
第70話を読んでいただきありがとうございます!
今回は歓迎会での一幕でした。
アルベルトは歓迎会を台無しにするつもりでしたが、またしても周囲には美談として受け取られてしまいました。
そしてセレナにも少しずつ変化が……?
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