第69話 悪役なら寮で一番広い部屋を奪う
「それでは。」
エリオットが手を叩く。
「皆さんをお部屋へご案内します。」
中央魔法学院の生徒たちが荷物を運び始めた。
「王都の寮って広いんだな。」
「うわぁ……ホテルみたい。」
地方学院の生徒たちは辺りを見回して感動している。
「……。」
俺は興味がなかった。
寝られれば十分だ。
「男爵様!」
リリアが駆け寄ってくる。
「同じ階だと嬉しいですね!」
「知らん。」
「えへへ。」
笑われた。
その時。
「こちらになります。」
エリオットが扉を開けた。
「まずはこちらが一般生徒用の部屋です。」
中には二人部屋が並んでいた。
「十分広い!」
「これで一般なのか!」
生徒たちから歓声が上がる。
「そして。」
エリオットは廊下の奥へ歩く。
一番奥。
他より一回り大きな扉の前で止まった。
「こちらが。」
「各学院代表者用の個室です。」
「おぉ……。」
教師たちまで感心している。
「代表者には集中して休んでいただくため、個室をご用意しております。」
「……。」
代表者。
つまり。
俺の部屋か。
なら。
悪役らしく。
「いらん。」
全員が振り返る。
「一般部屋へ行く。」
「え?」
エリオットが首を傾げる。
「代表者ですよ?」
「だからだ。」
「個室はいらん。」
「二人部屋で十分だ。」
よし。
これなら文句も出る。
代表者の自覚がないと嫌われる。
そう思った。
しかし。
「……さすが。」
エリオットが感心したように呟く。
「代表だからこそ。」
「仲間と同じ環境で過ごそうということですね。」
「違う。」
「素晴らしい。」
「違う。」
地方学院の生徒たちも目を輝かせる。
「男爵様……。」
「代表なのに。」
「俺たちと同じ部屋を選ぶなんて。」
「器が違う。」
「……。」
違う。
その時だった。
「却下です。」
セレナが冷たく言った。
「規則です。」
「代表者は個室。」
「変更は認めません。」
「……。」
初めてだ。
俺の意見を却下する奴は。
「そうか。」
「はい。」
「規則ですので。」
セレナは即答した。
少しだけ。
面白い。
すると。
エリオットが苦笑する。
「副会長は規則に厳しいのですよ。」
「規則は守るためにあります。」
セレナは真面目な顔で答えた。
「例外を認めれば秩序が乱れます。」
「……。」
俺は肩をすくめた。
「なら。」
「仕方ない。」
「規則なら従う。」
その言葉に。
セレナは一瞬だけ驚いた顔をした。
「……。」
「どうした。」
「いえ。」
小さく首を振る。
「少し意外だっただけです。」
「規則は嫌いだと思っていました。」
「嫌いだ。」
「だが。」
「決まりなら従う。」
セレナは何も言わなかった。
ただ。
ほんの少しだけ。
アルベルトを見る目が変わった。
(この人……。)
(思っていたほど無茶苦茶な人ではないのかもしれない。)
一方。
アルベルトは。
(初めてちゃんと嫌ってくれる奴がいる。)
(王都も悪くないな。)
などと考えていた。
お互い。
見事な勘違いだった。
第69話を読んでいただきありがとうございます!
今回は王都の寮へ入り、アルベルトとセレナが少しだけ互いを意識し始める回でした。
最初は対立していた二人ですが、この関係が今後どのように変化していくのかも第三章の見どころの一つです。
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