第68話 悪役なら初対面で喧嘩を売る
学院寮の前。
豪華な噴水の前で、一人の青年が穏やかに微笑んでいた。
「ようこそ。」
「王立中央魔法学院へ。」
周囲の生徒たちがざわつく。
「あの人……。」
「中央魔法学院の制服だ。」
「しかも金の刺繍……。」
「生徒会役員じゃないか?」
青年は優雅に一礼した。
「自己紹介が遅れました。」
「私はエリオット・アークレイン。」
「王立中央魔法学院、生徒会長を務めています。」
「生徒会長!?」
あちこちから驚きの声が上がる。
「今回の合同魔法演習では、皆様の案内役も担当しております。」
爽やかな笑顔。
完璧な立ち居振る舞い。
いかにも優等生だった。
そして。
その視線は俺から離れない。
「あなたが。」
「アルベルト・フォン・グランディア男爵ですね。」
「そうだ。」
「交流祭でのご活躍は伺っています。」
「違う。」
「謙遜なさらず。」
「違う。」
「……。」
面倒だ。
なら。
悪役らしく最初から嫌われよう。
「お前。」
俺はエリオットを見る。
「気に食わん。」
一瞬。
空気が凍った。
「男爵様!?」
リリアが青ざめる。
「いきなり何を!」
王女も少し驚いた表情になる。
教師たちまで慌て始めた。
「アルベルト君!」
「初対面ですよ!」
よし。
これで終わった。
嫌われた。
そう思った瞬間。
エリオットは静かに笑った。
「なるほど。」
「?」
「私を試しているのですね。」
「違う。」
「噂通りだ。」
感心したように頷く。
「肩書きだけで人を判断する人間か。」
「あるいは中身まで見ようとする人間か。」
「最初の一言で見極めようとしている。」
「素晴らしい観察眼です。」
「違う。」
「ははは。」
爽やかに笑われた。
リリアは胸を撫で下ろす。
「びっくりしましたぁ……。」
「やっぱり男爵様には考えがあったんですね!」
「違う。」
王女も優しく微笑む。
「相変わらず深いお方です。」
「違う。」
その時だった。
「会長。」
一人の女子生徒が歩いてきた。
銀色の長い髪。
切れ長の青い瞳。
どこか冷たい雰囲気を纏っている。
「そろそろ案内を。」
「ありがとう。」
エリオットは頷く。
「紹介します。」
「こちらは。」
「副会長のセレナ・フォルティスです。」
セレナは一歩前へ出る。
そして。
俺を見るなり眉をひそめた。
「……。」
数秒。
沈黙。
そして。
「あなたが。」
冷たい声で言う。
「噂の男爵様ですか。」
「そうだ。」
「……。」
セレナは腕を組んだ。
「私は。」
はっきりと言い放つ。
「あなたのような人は嫌いです。」
その場が静まり返る。
「副会長!」
エリオットが苦笑する。
「初対面ですよ。」
「構いません。」
セレナは視線を逸らさない。
「実力も見ずに持ち上げられる人間は好きではありません。」
「王都では。」
「実力がすべてです。」
「……。」
初めてだ。
真正面から。
敵意を向けてくる人間は。
「そうか。」
俺は短く答える。
「なら。」
小さく笑う。
「話が早い。」
「?」
「俺も。」
「お前みたいなのは嫌いだ。」
セレナの目が少しだけ見開かれた。
リリアは青ざめ。
「ま、また始まった……。」
王女は困ったようにため息をつく。
「王都へ着いて五分も経っていないのですが……。」
しかし。
俺は少しだけ満足していた。
ようやく。
まともに嫌われた気がしたのだから。
第68話を読んでいただきありがとうございます!
今回は王立中央魔法学院の生徒会長エリオットと、副会長セレナが登場しました。
エリオットはアルベルトを高く評価していますが、セレナは王都では珍しく最初から敵意を向ける人物です。
この二人が第三章でどのように関わっていくのか、お楽しみに!
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