第66話 悪役なら騎士団に喧嘩を売る
街道。
学院の馬車は王都騎士団によって止められていた。
「全員、身分証を提示!」
鎧姿の騎士が大声で叫ぶ。
生徒たちは順番に馬車から降りていく。
「緊張しますね……。」
リリアが小さく呟いた。
「王都騎士団ですから。」
王女も静かに頷く。
「職務に忠実な方々です。」
「……。」
なら。
悪役らしく喧嘩を売る。
俺は列を無視して前へ出た。
「止まれ!」
若い騎士が槍を向ける。
「順番を守れ!」
「断る。」
「なっ!」
よし。
これで嫌われる。
しかし。
その時だった。
「待て。」
奥から低い声が響く。
白銀の鎧をまとった壮年の騎士が歩いてくる。
周囲の騎士たちが一斉に敬礼した。
「隊長!」
「……。」
隊長らしい。
男は俺をじっと見つめた。
「君が。」
一枚の書類を見ながら言う。
「アルベルト・フォン・グランディア男爵か。」
「そうだ。」
「……。」
数秒の沈黙。
そして。
隊長は突然胸へ拳を当てた。
「王都騎士団第一部隊隊長、クラウスだ。」
「王都への到着を歓迎する。」
「?」
周囲の騎士たちがざわつく。
「隊長?」
「あの問題児を?」
「歓迎?」
俺も意味が分からない。
「何のつもりだ。」
「交流祭の報告書を読ませてもらった。」
クラウスは真っ直ぐ答えた。
「他校の暴走を止め。」
「生徒を守り。」
「模擬戦では最後まで正々堂々と戦った。」
「違う。」
「謙遜するな。」
「違う。」
「素晴らしい若者だ。」
「……。」
違うんだ。
横ではリリアが嬉しそうに頷いている。
「さすが男爵様です!」
「誇らしいですね。」
王女も微笑む。
違う。
そうじゃない。
「それでは。」
クラウスは横へ退いた。
「身分確認は不要だ。」
「通ってくれ。」
「は?」
「君の身元は保証されている。」
「……。」
面白くない。
嫌われるどころか。
特別扱いされた。
すると。
一人の若い騎士が悔しそうに前へ出る。
「隊長!」
「ですが!」
「規則では!」
「全員確認する決まりです!」
「その通りだ。」
クラウスは頷く。
「だから彼だけ確認する。」
「?」
クラウスは俺へ向き直る。
「名前は。」
「アルベルト。」
「爵位は。」
「男爵。」
「所属。」
「王立魔法学院。」
「よし。」
満足そうに頷いた。
「確認終了だ。」
「通れ。」
「…………。」
結局。
確認された。
だが。
一番早く終わった。
生徒たちは口々に話し始める。
「すごい……。」
「騎士団長に認められてる。」
「やっぱり男爵様だ。」
「……。」
違う。
本当に違う。
俺はため息をつきながら馬車へ戻る。
その時。
クラウスが小さな声で呟いた。
「王都では。」
「気を付けろ。」
「?」
「君を快く思わない者もいる。」
「……。」
それだけ言うと。
クラウスは部下たちの元へ戻っていった。
初めてだった。
王都で。
俺に敵意を向ける者がいると知ったのは。
第66話を読んでいただきありがとうございます!
今回は王都騎士団との初対面でした。
交流祭での活躍は、アルベルト本人の知らないところで王都にも伝わっていたようです。
そして最後には、王都編の新たな火種となる意味深な忠告も……。
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