第65話 悪役なら礼なんて受け取らない
暴走した馬車の騒ぎは収まり、人々も少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「本当にありがとうございました!」
男の子の母親が深々と頭を下げる。
「命の恩人です!」
「違う。」
俺は短く答える。
「助けたかったわけじゃない。」
「え?」
「邪魔だっただけだ。」
よし。
最低な言い方だ。
これで少しは嫌われる。
しかし。
「なんて不器用な方なんだ……。」
「照れ隠しなんだな。」
「優しい人ほどそう言うんだよ。」
「……。」
違う。
違うんだ。
母親は涙ぐみながら小さな袋を差し出した。
「少ないですが、お礼を……。」
「いらん。」
即答した。
「ですが!」
「受け取れ。」
「いえ!」
ぐいぐい押し付けてくる。
俺はため息をつき、袋を見た。
中には銀貨が数枚。
旅人には決して安くない金額だ。
「……。」
悪役なら奪う。
だが。
これは生活費だろう。
「子供に使え。」
袋を押し返す。
「風邪を引いたら薬でも買え。」
母親は目を見開いた。
「……はい!」
また泣き始めた。
「なんでだ。」
リリアは横で両手を胸の前で組み、目を輝かせている。
「男爵様らしいです!」
「らしくない。」
「らしいですよ!」
王女も静かに微笑んだ。
「見返りを求めない騎士。」
「まさに理想です。」
「違う。」
その時だった。
「おーい!」
御者が手を振る。
「そろそろ出発しますよー!」
生徒たちが次々と馬車へ戻っていく。
ルークがこちらへ歩いてきた。
「アルベルト。」
「なんだ。」
「また英雄扱いだぞ。」
広場を見渡す。
町の人々がこちらへ向かって頭を下げていた。
「ありがとうございました!」
「王都でも頑張ってください!」
「お気を付けて!」
「……。」
やめろ。
そういうのは嫌いだ。
俺は逃げるように馬車へ乗り込んだ。
「男爵様、待ってください!」
リリアも慌てて続く。
王女も優雅に乗り込む。
ガタン。
扉が閉まり、再び馬車は走り出した。
町を離れてしばらくすると。
王女が窓の外を見ながら呟く。
「あと半日ほどで王都ですね。」
「……。」
ようやくか。
「楽しみです!」
リリアは期待に胸を膨らませる。
「他の学院の方とも会えます!」
「王都のお店もありますし!」
「演習も楽しみですね!」
「俺は全部楽しみじゃない。」
「あはは。」
笑われた。
その時。
御者が馬車を止める。
「どうしました?」
教師が尋ねる。
御者は前方を指差した。
「街道の先に……。」
「検問があります。」
街道には。
重厚な鎧をまとった王都騎士団が並び、すべての馬車を止めていた。
「身分証の確認だ!」
「全員、馬車から降りろ!」
どうやら。
王都へ入る前の最後の関門らしい。
俺は静かに立ち上がる。
「……。」
悪役なら。
こういう連中には逆らうべきだな。
第65話を読んでいただきありがとうございます!
宿場町での騒動も一段落し、いよいよ王都目前です。
次回は王都騎士団との出会い。アルベルトはまたしても「悪役らしく」振る舞おうとしますが、果たしてどうなるのでしょうか。
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