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第64話 悪役なら子供を見捨てる

 宿屋の外。


「誰か助けてくれ!」


 男の叫び声が響く。


 表へ飛び出すと。


 一頭の馬が暴走していた。


「ヒヒィィィン!」


 荷馬車を引いたまま一直線に走る。


「危ない!」


「逃げろ!」


 人々が道を開ける。


 その先には。


 一人の小さな男の子が立ち尽くしていた。


「お、お母さん……。」


 動けない。


「……。」


 俺は立ち止まる。


 悪役だ。


 助ける義理はない。


 放っておけばいい。


 そう思った。


 だが。


「ちっ。」


 身体が勝手に動いた。


 地面を蹴る。


 ダンッ!


 暴走する馬車へ一直線。


「男爵様!」


 リリアの叫びが聞こえる。


 男の子を抱き上げる。


「きゃっ!」


 そのまま横へ飛ぶ。


 ドゴォン!


 荷馬車が目の前を通り過ぎ、木へ激突した。


 木箱が砕ける。


 辺りに荷物が散らばった。


 静寂。


「……。」


 男の子は無事だった。


「もう大丈夫だ。」


「う、うん……。」


 泣きそうな顔で頷く。


 母親らしき女性が駆け寄ってきた。


「この子が!」


 男の子を抱き締める。


「本当にありがとうございます!」


「違う。」


「男爵様!」


 リリアも息を切らしてやって来る。


「お怪我はありませんか!」


「ない。」


 王女も安心したように胸へ手を当てた。


「本当に良かったです。」


「違う。」


 俺は男の子を見る。


「次から。」


 短く言う。


「道路の真ん中へ立つな。」


「……。」


 男の子は小さく頷いた。


「ごめんなさい。」


「親の手を離すな。」


「うん!」


 元気よく返事をする。


 その様子を見ていた宿場町の人々から。


 自然と拍手が起こった。


「すごい人だ。」


「命の恩人だ。」


「まるで騎士様みたいだ。」


「違う。」


 俺は歩き出す。


 その時だった。


 ガイア。


 昨日交流祭で出会った他校の問題児が、偶然その場へやって来た。


「おっ。」


 俺を見る。


「また会ったな。」


「……。」


「さっきの見たぜ。」


 ニヤリと笑う。


「口は悪ぃのに。」


 肩をすくめる。


「身体は正直だな。」


「違う。」


「ははっ!」


 ガイアは豪快に笑った。


「ますます気に入った!」


「……。」


 面倒なのが増えた。


 その頃。


 宿屋の二階。


 一人の黒いローブを羽織った青年が窓から一部始終を眺めていた。


「なるほど。」


 小さく笑う。


「彼が。」


 手元の資料へ目を落とす。


 そこには。


 『アルベルト・フォン・グランディア』


 という名前が書かれていた。


「王都が注目する理由も分かる。」


 青年は静かに窓を閉める。


「面白い。」


 その言葉だけを残し。


 姿を消した。


 もちろん。


 そんなことを知る由もなく。


 俺は。


「早く王都なんて終われ。」


 本気でそう思っていた。

第64話を読んでいただきありがとうございます!


今回は宿場町での騒動と、第三章で重要になる新たな人物を少しだけ登場させました。


王都へ向かう旅はまだ続きますが、その裏ではアルベルトを見つめる者たちも少しずつ動き始めています。


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク、★★★★★評価、感想で応援していただけると、とても励みになります!


次回もよろしくお願いいたします!

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