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第58話 悪役なら負けた相手を笑う

 代表戦。


 一度も剣を振ることなく終わった。


「男爵様ー!」


「おめでとうございます!」


「学院代表最強!」


 歓声が鳴り止まない。


「……。」


 納得できない。


 勝ってない。


 戦ってすらいない。


「なら。」


 最後くらい悪役らしく。


 負けた相手を笑おう。


 最低だ。


 これなら誰でも怒る。


 セシルは木剣を片付けていた。


 悔しそうな顔をしている。


「おい。」


「男爵様。」


 振り返る。


「なんでしょう。」


「弱いな。」


「……。」


 辺りが静まり返る。


 よし。


 今度こそだ。


「学院代表が聞いて呆れる。」


「……。」


 セシルは俯いた。


 その肩が少しだけ震える。


 よし。


 怒れ。


 嫌え。


 そう思った。


「はい。」


 セシルは顔を上げた。


 目には涙が浮かんでいた。


「本当に。」


 悔しそうに笑う。


「僕は弱いです。」


「……。」


「だから。」


 深く頭を下げる。


「今日のお言葉、一生忘れません。」


「違う。」


「もっと強くなります。」


「違う。」


「必ず。」


 拳を握る。


「男爵様へ胸を張って挑めるくらい。」


「努力します。」


「違う。」


 まただ。


 教師まで頷いている。


「負けた相手を慰めない。」


「厳しい。」


「だからこそ成長する。」


「違う。」


 リリアが少し涙ぐんでいた。


「男爵様。」


「本当に。」


 嬉しそうに笑う。


「優しいですね。」


「違う。」


 王女も頷く。


「負けた相手へ。」


「情けではなく。」


「次へ進む勇気を与えられたのですね。」


「違う。」


 その時だった。


 セシルが腰の剣を外した。


「男爵様。」


「?」


「これは。」


 学院代表だけに与えられる特注の木剣だった。


「受け取ってください。」


「いらん。」


「僕が持っていても。」


 苦笑する。


「まだ相応しくありません。」


「だから。」


 真っ直ぐ俺を見る。


「いつか取り返しに来ます。」


「……。」


 周囲から大きな拍手が響く。


「いい勝負だった!」


「感動した!」


「交流祭最高!」


「……。」


 感動じゃない。


 ただ俺が悪口を言っただけだ。


 その時。


 学院長が壇上へ姿を現した。


「皆さん。」


 杖を軽く鳴らす。


 会場が静まる。


「今年の交流祭も無事終了です。」


 生徒たちが拍手する。


「最後に。」


 学院長は静かに笑った。


「皆さんへ、一つだけお知らせがあります。」


 その一言で。


 空気が変わった。


「来月。」


 一拍置く。


「王都で行われる『王国合同魔法演習』へ。」


 生徒たちが息を呑む。


「本学院代表として。」


 学院長はゆっくり俺を見た。


「アルベルト・フォン・グランディア君。」


「……。」


「君へ正式な招待状が届いています。」


 会場中がどよめいた。


「王都!?」


「全国の学院が集まるやつだ!」


「男爵様すごい!」


 俺は静かにため息を吐く。


「……断ろう。」


 その呟きを聞いた者は。


 誰一人としていなかった。

第58話を読んでいただきありがとうございます!


交流祭編もいよいよ終盤となりました。


今回は代表戦の締めくくりと、次章へ繋がる新たな舞台への伏線が登場します。


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