第57話 悪役なら代表戦を放棄する
最後の催し。
学院代表と他校代表による合同演習。
大勢の観客が闘技場を埋め尽くしていた。
「男爵様ー!」
「頑張ってください!」
「学院代表だ!」
「……。」
帰りたい。
本気で帰りたい。
闘技場へ上がると。
向かい側から一人の男子生徒が歩いてきた。
「よろしく。」
銀髪。
整った顔立ち。
そして胸には他校代表の証。
「僕はセシル・アルバート。」
静かに一礼する。
「フェルディア王立学院代表です。」
「そうか。」
「お噂は聞いています。」
「……。」
嫌な予感しかしない。
「今日は胸を借ります。」
「断る。」
「え?」
「俺は帰る。」
そのまま踵を返す。
これでいい。
学院代表が逃げた。
最悪だ。
悪役らしい。
「男爵様!」
リリアの悲鳴が響く。
「アルベルト様!」
王女も立ち上がる。
会場がざわつく。
「帰るのか?」
「代表戦だぞ?」
「どういうこと?」
俺は構わず出口へ歩く。
すると。
「男爵様。」
後ろからセシルの声。
「一つだけ。」
「……。」
「僕は。」
静かに続ける。
「男爵様と戦うためだけに、一年間努力してきました。」
「?」
「去年。」
少しだけ笑う。
「剣術大会であなたを見て。」
拳を握る。
「追いつきたいと思ったんです。」
「……。」
「だから。」
深く頭を下げる。
「お願いします。」
「一度だけ。」
「僕と戦ってください。」
会場が静まり返る。
俺はため息を吐いた。
「……面倒だ。」
そう言って振り返る。
「一回だけだ。」
「はい!」
セシルの顔が明るくなる。
「ありがとうございます!」
試合開始。
「始め!」
セシルが踏み込む。
速い。
今までで一番速い。
だが。
「……。」
俺は木剣を地面へ置いた。
「?」
セシルが止まる。
「どういう意味ですか。」
「素手で十分だ。」
最低だ。
舐めている。
これなら確実に怒る。
しかし。
「……。」
セシルは目を見開いたあと。
ゆっくり木剣を下ろした。
「そうでしたか。」
「?」
「僕は。」
苦笑する。
「まだ。」
「男爵様に剣を向ける資格すら無いんですね。」
「違う。」
「ありがとうございます。」
もう一度頭を下げる。
「もっと強くなってきます。」
「違う。」
「審判!」
セシルが大きな声で言った。
「僕の負けです。」
「なっ!?」
観客席がどよめく。
「おい!」
「戦ってないぞ!」
教師まで立ち上がる。
だが。
セシルは晴れやかな笑顔だった。
「十分です。」
「今日。」
アルベルトを見る。
「目標が、もっと遠くなりました。」
「……。」
違う。
そういう意味じゃない。
司会が戸惑いながら叫ぶ。
「しょ、勝者!」
「アルベルト・フォン・グランディア!」
大歓声が響く。
「うおおおお!」
「男爵様!」
「強すぎる!」
「……。」
俺は木剣を拾い上げる。
一度も振ってない。
それなのに。
勝ったことになっていた。
第57話を読んでいただきありがとうございます!
交流祭最後の代表戦が始まりました。
アルベルトは試合すら放棄しようとしましたが、その行動すら相手には別の意味で伝わってしまいます。
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