第55話 悪役なら優勝商品を奪う
交流祭も終盤。
中央広場には大勢の生徒が集まっていた。
「次はいよいよ宝探し大会です!」
司会の声が響く。
「優勝者には王家特製の魔道具を贈呈します!」
会場が盛り上がる。
「欲しい!」
「絶対優勝する!」
「魔道具だって!」
「……。」
興味ない。
だが。
「使える。」
悪役なら。
他人の賞品を奪う。
これ以上分かりやすい悪役はいない。
ルールは単純。
学院中に隠された宝箱を探すだけ。
「開始!」
一斉に生徒たちが走り出す。
俺はゆっくり歩く。
その途中。
「見つけた!」
小柄な男子生徒が叫んだ。
木の陰に宝箱がある。
「やった!」
嬉しそうに駆け寄る。
その前へ。
俺は立った。
「……。」
「え?」
「それ。」
宝箱を指差す。
「俺がもらう。」
「…………。」
静まり返る。
よし。
最低だ。
これなら嫌われる。
「わ、分かりました!」
「?」
男子生徒はあっさり宝箱から手を離した。
「男爵様が見つけたことにしてください!」
「違う。」
「僕なんかより男爵様の方が!」
「違う。」
その時。
「待ってください!」
教師がやって来た。
「宝箱は最初に見つけた方のものです。」
「……。」
しまった。
奪えない。
「ですので。」
教師は男子生徒へ微笑む。
「君が開けてください。」
「は、はい!」
男子生徒が箱を開ける。
中には。
一枚の金色の札。
「おめでとうございます!」
司会が叫ぶ。
「優勝です!」
会場中から拍手が起こる。
「すごい!」
「優勝だ!」
男子生徒は震えながら俺を見た。
「男爵様。」
「なんだ。」
「さっき。」
嬉しそうに笑う。
「譲ってくださったんですね。」
「違う。」
「僕が緊張しないように。」
「違う。」
「本当は男爵様なら。」
宝箱を見る。
「簡単に取れたのに。」
「違う。」
また勘違いだ。
「男爵様!」
リリアが笑顔で駆け寄る。
「優勝、おめでとうございます!」
「俺じゃない。」
「男爵様のおかげですよ!」
「違う。」
王女も優しく拍手する。
「素敵でした。」
「違う。」
「勝つことより。」
男子生徒を見る。
「後輩へ譲ることを選ばれたのですね。」
「違う。」
男子生徒は。
突然。
深く頭を下げた。
「男爵様!」
「僕!」
涙ぐみながら笑う。
「絶対に男爵様みたいになります!」
「なるな。」
「はい!」
返事だけは元気だった。
その日の交流祭。
また新しい噂が生まれる。
『男爵様は優勝できたのに、後輩へ譲ったらしい。』
『本当に格好いい……。』
『英雄すぎる。』
「……。」
俺は静かにため息を吐く。
悪役になる日は。
まだまだ遠そうだった。
第55話を読んでいただきありがとうございます!
交流祭もいよいよ終盤です。
今回もアルベルトは悪役らしく賞品を奪おうとしましたが、結果はまたしても正反対の評価となってしまいました。
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