第53話 悪役なら他校の生徒を泣かせる
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交流祭。
他校の生徒にまで好かれた。
「……。」
もう嫌だ。
学院だけで十分だったのに。
「なら。」
今度こそ。
泣かせる。
他校の生徒を泣かせれば、この学院の評判まで落ちる。
教師にも怒られる。
悪役として完璧だ。
俺は人混みの中を歩く。
すると。
「あっ!」
小さな悲鳴が聞こえた。
一人の少女が地面を見つめている。
他校の制服だ。
「どうした?」
少女は涙目だった。
「記念に買った髪飾りが……。」
「?」
「なくなっちゃって……。」
なるほど。
「知らん。」
俺はそのまま歩き出す。
放っておけばいい。
悪役だからな。
「……。」
三歩。
四歩。
五歩。
「……ちっ。」
面倒だ。
俺は周囲を見回す。
人混み。
屋台。
風。
「そこか。」
近くの植え込みへ歩く。
枝をかき分ける。
すると。
「……あった。」
小さな青い髪飾りが引っ掛かっていた。
俺は無言で少女へ投げる。
「ほら。」
「え?」
少女は慌てて受け取る。
「これ!」
目を丸くする。
「私のです!」
「そうか。」
「ありがとうございます!」
「違う。」
立ち去ろうとする。
「待ってください!」
少女が頭を下げた。
「お礼を!」
「いらん。」
「でも!」
「次から落とすな。」
「……。」
少女は何度も頷いた。
「はい!」
その様子を。
偶然通り掛かった他校の教師が見ていた。
「君。」
「?」
「君が見つけてくれたのか。」
「違う。」
「謙遜しなくていい。」
「違う。」
教師は笑顔で肩を叩く。
「素晴らしい生徒だ。」
「……。」
またか。
すると。
「先生!」
少女が嬉しそうに叫ぶ。
「この方、本当に優しいんです!」
「違う。」
「最初は怖かったんですけど!」
「違う。」
「ちゃんと探してくれたんです!」
他校の生徒たちまで集まってくる。
「すごい。」
「うちの学院にも来てほしい。」
「格好いいな。」
「……。」
その光景を見たリリアが、小さく笑う。
「男爵様。」
「また助けちゃいましたね。」
王女も苦笑する。
「もう他校でも有名になりそうです。」
「違う。」
その時。
少女が突然。
俺の手をぎゅっと握った。
「?」
「ありがとうございました!」
満面の笑みだった。
「一生大事にします!」
「……。」
俺は静かに手を離す。
「もう落とすな。」
「はい!」
元気よく返事をする少女。
その後ろでは。
リリアと王女が。
なぜか同時にその手を見つめていた。
「……。」
「……。」
二人とも。
何も言わなかった。
だが。
ほんの少しだけ。
胸の奥が、もやもやしていた。
第53話を読んでいただきありがとうございます!
今回は交流祭で他校の生徒との小さな交流を描きました。
アルベルト本人は冷たく振る舞っているつもりですが、周囲からはますます「優しい人」として見られてしまいます。
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