第50話 悪役なら模擬戦で負ける
交流祭。
学院中が歓声に包まれていた。
「次の試合です!」
「頑張れー!」
「すごい!」
模擬戦会場。
大勢の生徒が観客席を埋めている。
「……。」
俺はため息を吐いた。
こんな所に来るつもりはなかった。
「アルベルト!」
ルークが笑顔で肩を叩く。
「お前も出るんだろ!」
「出ない。」
「え?」
教師がこちらへ歩いてくる。
「アルベルト君。」
「なんだ。」
「参加者が一人欠席になりまして。」
「知らん。」
「代わりにお願いします。」
「断る。」
「もう名前を書いてあります。」
「……。」
誰だ。
勝手に書いたのは。
すると。
リリアが小さく手を挙げた。
「わ、私です……。」
「……。」
「男爵様なら。」
照れながら笑う。
「勝てると思って……。」
「余計なことを。」
「ご、ごめんなさい。」
よし。
なら利用する。
「負ければいい。」
悪役が無様に負ける。
格好悪い。
情けない。
これなら好感度も下がる。
「アルベルト・フォン・グランディア!」
名前が呼ばれる。
闘技場へ上がる。
相手は三年生。
学院でも有名な剣士らしい。
「よろしく。」
「……。」
よろしくする気はない。
試合開始。
「始め!」
相手が踏み込んでくる。
速い。
だが。
「……。」
避けられる。
受けられる。
勝てる。
「駄目だ。」
勝ったらまた面倒だ。
俺はわざと木剣を落とした。
カラン。
「!」
会場がざわつく。
よし。
終わりだ。
負け――
「危ない!」
相手の木剣が勢い余って顔へ向かってきた。
反射だった。
俺は足元の木剣を蹴り上げる。
ガキィン!
相手の木剣が大きく弾かれた。
「なっ!?」
さらに。
宙へ浮いた木剣を掴み。
そのまま相手の首元へ。
ピタッ。
「…………。」
静寂。
誰も動かない。
教師が口を開く。
「しょ、勝者。」
一拍置いて。
「アルベルト・フォン・グランディア!」
大歓声が響いた。
「うおおおお!」
「今の見た!?」
「木剣を蹴り上げたぞ!」
「すげぇ!」
「……。」
違う。
今のは。
負けようとしただけだ。
「男爵様!」
リリアが目を輝かせる。
「格好良かったです!」
「違う。」
王女も嬉しそうだった。
「最後まで冷静でしたね。」
「違う。」
ルークは大興奮だった。
「アルベルト!」
「今の教えろ!」
「教えん。」
「頼む!」
「嫌だ。」
その時。
三年生が深く頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「?」
「最後。」
悔しそうに笑う。
「わざと木剣を落として、僕に慢心させたんですね。」
「違う。」
「そこから一瞬で逆転するなんて。」
拳を握る。
「完敗です!」
「違う。」
まただ。
また勘違いだ。
会場では。
『男爵様は勝てる相手にも油断させず、最後まで冷静だった。』
そんな噂が一気に広がっていく。
「……。」
俺は木剣を肩へ担いだ。
負けることすら。
失敗した。
第50話を読んでいただきありがとうございます!
交流祭編最初の模擬戦でした。
負けるつもりだったアルベルトですが、反射的な動きでまたしても周囲から賞賛される結果となってしまいました。
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