第43話 悪役なら泣いていても放っておく
放課後。
学院の中庭。
「……。」
今日は静かだった。
リリアも王女もいない。
「ようやく一人か。」
俺はそのまま学院の裏庭へ向かう。
人も少ない。
悪くない場所だ。
その時だった。
「……うっ。」
小さな泣き声が聞こえた。
「?」
木陰を見る。
一人の少女が膝を抱えて泣いていた。
制服を見る限り、一年生だ。
「……。」
見なかったことにしよう。
悪役だ。
泣いている人間を慰めるなんて論外。
俺はそのまま通り過ぎた。
「……。」
三歩。
四歩。
五歩。
「……はぁ。」
ため息を吐く。
面倒だ。
本当に面倒だ。
俺は振り返った。
「おい。」
少女がびくっと肩を震わせる。
「なんで泣いてる。」
「ひっ……。」
怯えられた。
よし。
悪役らしい。
「せ、先輩……。」
「話せ。」
「……。」
少女は涙を拭く。
「魔法実技で……。」
「?」
「失敗ばかりで……。」
なるほど。
「皆に迷惑掛けちゃって。」
「……そうか。」
俺は少し考える。
「なら。」
「はい?」
「次は成功しろ。」
「……え?」
「失敗したくないなら。」
短く言う。
「練習しろ。」
「……。」
「以上だ。」
それだけ言って歩き出す。
慰めない。
優しい言葉も掛けない。
これでいい。
悪役だからな。
その時だった。
「ありがとうございました!」
後ろから元気な声が聞こえた。
「……。」
振り返る。
少女は涙を拭きながら笑っていた。
「頑張ります!」
「そうか。」
また失敗した。
その様子を。
少し離れた木陰から二人が見ていた。
「殿下。」
「ええ。」
王女が小さく微笑む。
「やっぱり。」
「男爵様でしたね。」
隣ではリリアも笑っていた。
「慰めないのに。」
「ちゃんと前を向かせてあげるんですね。」
「ええ。」
王女は頷く。
「きっと。」
少女へ視線を向ける。
「甘い言葉より。」
アルベルトの背中を見る。
「努力する勇気を与えたかったのでしょう。」
「……。」
リリアも頷く。
「男爵様らしいです。」
二人とも。
また勘違いしていた。
俺はただ。
面倒だから一言だけ言っただけだ。
その帰り道。
「あっ!」
さっきの一年生が友達へ駆け寄る。
「どうしたの?」
「男爵様に励ましてもらったの!」
「ええっ!?」
「絶対諦めるなって!」
「言ってない。」
小さく呟く。
当然。
誰にも聞こえなかった。
第43話を読んでいただきありがとうございます!
今回は学院の後輩とのお話でした。
アルベルトは冷たく接したつもりですが、その言葉は思わぬ形で相手の背中を押すことになります。
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