第42話 悪役なら一緒に帰らない
放課後。
鐘が鳴る。
「……。」
今日こそだ。
昼休みは失敗した。
なら帰り道。
ここで冷たく突き放せばいい。
俺は荷物を持ち、誰よりも早く教室を出た。
「男爵様!」
やっぱり来た。
リリアだった。
「一緒に帰りませんか?」
「断る。」
「え?」
「一人で帰る。」
はっきり言う。
これなら傷付く。
嫌われる。
そのはずだった。
「そうですよね。」
リリアは少しだけ笑った。
「男爵様、お疲れですもんね。」
「違う。」
「今日はゆっくり休んでください!」
「だから違う。」
その時。
「男爵様。」
今度は王女だった。
「馬車でお送りします。」
「いらん。」
「遠慮なさらず。」
「遠慮じゃない。」
「歩いて帰る。」
「でしたら。」
王女も歩き始めた。
「私も歩きます。」
「……。」
なんでだ。
「来るな。」
「はい。」
返事だけして。
普通について来る。
「私も!」
リリアも隣へ並ぶ。
「一緒に歩きます!」
「……。」
話を聞け。
三人で歩き始める。
夕日に照らされた学院の並木道。
周囲の生徒が次々と振り返る。
「また男爵様。」
「今日は帰り道か。」
「いいなぁ。」
その時だった。
前から小さな女の子が走ってきた。
「あっ!」
足をもつれさせる。
転ぶ。
反射的に。
俺はその子の腕を掴んだ。
「危ない。」
「ご、ごめんなさい!」
制服を見る限り、学院の初等部らしい。
「お兄ちゃんありがとう!」
「……。」
しまった。
助けてしまった。
「次から気を付けろ。」
「うん!」
女の子は元気よく走っていく。
「男爵様。」
リリアが嬉しそうに笑う。
「やっぱり優しいですね。」
「違う。」
「とても自然でした。」
王女も微笑む。
「考えるより先に身体が動くのですね。」
「違う。」
「悪役なら。」
思わず本音が漏れる。
「見捨てるべきだった。」
一瞬。
二人とも止まる。
しまった。
言い過ぎたか。
今度こそ。
嫌われる。
そう思った。
しかし。
リリアは少しだけ寂しそうに笑った。
「男爵様。」
「なんだ。」
「嘘は苦手ですね。」
「?」
「だって。」
さっき女の子を助けた手を見つめる。
「本当に見捨てられる人なら。」
優しく微笑む。
「助けたりしません。」
王女も静かに頷いた。
「ええ。」
「男爵様は。」
俺を見る。
「口よりも。」
一歩だけ近付く。
「行動の方が、ずっと正直です。」
「……。」
違う。
ただ反射で動いただけだ。
俺は何も言い返せなかった。
学院の門へ着く。
「では男爵様。」
王女が一礼する。
「また明日。」
「また明日です!」
リリアも笑顔で手を振る。
二人が去っていく。
その途中。
「リリアさん。」
「はい?」
「先ほどの男爵様。」
王女が微笑む。
「格好良かったですね。」
「……はい。」
リリアも照れ笑いを浮かべる。
「でも。」
二人は同時に呟く。
「私が一番近くで見ていました。」
「……。」
「……。」
目が合う。
数秒後。
二人は同時に笑ってしまった。
「ふふっ。」
「えへへ。」
ライバル。
でも友達。
そんな少し不思議な関係が、今日もまた少しだけ深まっていた。
第42話を読んでいただきありがとうございます!
今回は帰り道の日常回でした。
アルベルトは最後まで悪役を目指していましたが、またしても無意識に人助けをしてしまいました。
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