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第39話 悪役なら噂を利用する

最近、学院がおかしい。


 廊下を歩けば視線を感じる。


「男爵様だ。」


「おはようございます!」


「今日もかっこいい……。」


「……。」


 俺はただ歩いているだけだ。


 なのに勝手に好感度が上がる。


「なら。」


 その噂を利用してやる。


 悪役なら、自分の権力を振りかざすものだ。


 昼休み。


 俺は教室で立ち上がった。


「リリア。」


「はい!」


「王女。」


「はい。」


「来い。」


 二人は顔を見合わせたあと、同時に立ち上がる。


「どちらへ?」


「中庭だ。」


「分かりました。」


 三人で歩く。


 廊下の生徒たちが道を開けた。


「男爵様だ。」


「リリアさんも。」


「王女殿下まで。」


 よし。


 ここだ。


 悪役らしく命令してやる。


 中庭へ着く。


 俺はベンチへ座った。


「二人。」


「「はい。」」


「飲み物を買ってこい。」


 シーンと静まり返る。


 よし。


 最低だ。


 女の子を使い走りにするなんて。


 これなら嫌われる。


 しかし。


「何がよろしいですか?」


 リリアが真っ先に尋ねる。


「紅茶でしょうか?」


「私は温かいものをおすすめします。」


 王女まで真剣に考え始めた。


「……。」


 違う。


「適当でいい。」


「分かりました!」


「行ってまいります。」


 二人は一緒に売店へ向かっていく。


 その後ろ姿を見送りながら。


 男子生徒たちがざわついていた。


「男爵様……。」


「二人にお使いを。」


「すげぇ。」


「俺なら緊張して死ぬ。」


 一方。


 売店へ向かう途中。


 リリアが小さく口を開いた。


「殿下。」


「はい。」


「男爵様って。」


 少し照れたように笑う。


「初めて私たちを頼ってくださいましたね。」


「……ええ。」


 王女も優しく微笑む。


「嬉しかったです。」


「私もです。」


 二人は顔を見合わせる。


 そして。


「男爵様はコーヒーがお好きなんでしょうか。」


「いえ、この前は紅茶を飲まれていました。」


「でも甘い物は苦手そうですよね。」


「そうですね。」


 いつの間にか。


 二人は真剣にアルベルトの好みを話し始めていた。


 数分後。


「男爵様!」


「お待たせしました。」


 戻ってきた二人の手には。


 飲み物だけではなかった。


「パン?」


「喉が渇いているだけでは、お腹も空くと思いまして。」


「果物?」


「デザートもご用意しました。」


「……。」


 増えてる。


「頼んでない。」


「はい!」


「ですが必要だと思いました。」


「……。」


 違う。


 俺はこき使いたかっただけだ。


 すると。


 ルークが後ろから現れた。


「おっ!」


 机の上を見る。


「すげぇ豪華!」


「アルベルト!」


 肩を叩く。


「完全に夫婦だな。」


「…………。」


 一瞬だった。


 リリア。


 王女。


 二人とも固まる。


「え?」


「……。」


 ルークは何も気付かない。


「いやー。」


 笑いながら続ける。


「新婚夫婦みたいだ!」


「ルーク。」


 俺は静かに言った。


「なんだ?」


「黙れ。」


「え?」


 その横では。


 リリアが耳まで真っ赤になり。


「ふ、夫婦って……。」


 王女も顔を赤くして視線を逸らした。


「そ、そのような……。」


 昼休みの中庭。


 また新しい噂が生まれようとしていた。

第39話を読んでいただきありがとうございます!


今回はアルベルトが悪役らしく二人を使い走りにしたつもりが、さらに周囲の勘違いが加速してしまいました。


そしてルークは、空気を読まずにとんでもない一言を放ちます。


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