第35話 悪役なら風邪でもこき使う
忘れ物も失敗。
礼を言っただけで噂になった。
「……。」
もう学院がおかしい。
普通じゃない。
そんなことを考えながら朝、教室へ入る。
「男爵様?」
リリアが心配そうな顔をした。
「顔色が悪いですよ?」
「そうか。」
昨日から少し身体が重い。
熱もある気がする。
だが、この程度で休むわけにはいかない。
「授業だ。」
席へ座る。
その瞬間。
少しだけ視界が揺れた。
「男爵様!」
リリアが慌てて肩を支える。
「触るな。」
「でも……。」
「問題ない。」
そう言いながら立ち上がる。
ふらっ。
身体が大きく傾いた。
「危ない!」
今度は王女まで駆け寄ってきた。
二人同時に俺の腕を支える。
「……。」
「男爵様、大丈夫ですか!」
「顔が真っ赤です!」
「騒ぐな。」
少し熱があるだけだ。
悪役ならこれくらい我慢する。
教師も近付いてきた。
「アルベルト君。」
「なんだ。」
「保健室へ。」
「断る。」
「熱がありますね。」
「ない。」
額へ手を当てられる。
「あります。」
「……。」
その時だった。
「先生。」
俺は静かに言った。
「リリア。」
「は、はい!」
「保健室まで荷物を運べ。」
「え?」
「全部だ。」
机の上の教科書を指差す。
「あとノートも。」
「……。」
よし。
病人を利用する最低な男。
これなら嫌われる。
「分かりました!」
リリアは笑顔で全部抱えた。
「任せてください!」
違う。
喜ぶな。
「では。」
俺は王女を見る。
「お前。」
「はい。」
「肩を貸せ。」
「……!」
王女の瞳が大きく開く。
「歩くのが面倒だ。」
悪役らしく命令する。
これなら。
さすがに怒る。
「はい!」
王女は嬉しそうに俺の腕を肩へ回した。
「お任せください。」
「……。」
なんでそんな嬉しそうなんだ。
教室中が静まり返る。
「男爵様……。」
「殿下が肩を……。」
「しかも命令したぞ。」
「さすがだ……。」
違う。
さすがじゃない。
俺はただ横暴なことをしただけだ。
保健室まで歩く。
「男爵様。」
王女が小さく笑う。
「少し重いです。」
「そうか。」
「でも。」
嬉しそうだった。
「頼っていただけて嬉しいです。」
「違う。」
後ろでは。
大量の教科書を抱えたリリアが歩いている。
「……。」
少しだけ頬を膨らませていた。
「男爵様。」
「なんだ。」
「次は。」
リリアが少しだけ拗ねたように言う。
「私にも肩を貸してくださいね。」
「貸す側じゃないのか?」
「え?」
「……。」
リリアは数秒考えたあと。
思わず笑ってしまった。
「そうですね。」
「ふふっ。」
王女も笑う。
二人は笑っている。
だが。
どちらも。
次は自分が隣にいたい。
そんなことを考えているとは。
俺だけは最後まで気付かなかった。
第35話を読んでいただきありがとうございます!
今回は少しだけ日常回として、体調を崩したアルベルトのお話でした。
本人は悪役らしく人をこき使ったつもりですが、周囲からは「初めて頼ってくれた」と受け取られてしまいます。
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