第34話 悪役なら忘れ物くらい届けさせる
荷物持ちも失敗した。
結局、自分で持つことになり、紳士扱いまでされた。
「……次だ。」
悪役は人を使う。
面倒事は全部押し付ける。
それで嫌われる。
今回はそれだ。
授業が終わり、俺は教室を出た。
そして廊下の途中で、わざと教科書を一冊机へ置いていく。
「これでいい。」
忘れ物。
普通なら取りに戻る。
だが俺は戻らない。
誰かに届けさせる。
これなら確実に迷惑だ。
数分後。
「男爵様!」
後ろから聞き慣れた声。
振り返る。
リリアだった。
教科書を抱えて走ってくる。
「忘れ物です!」
「知ってる。」
「え?」
「わざとだ。」
「……。」
リリアはきょとんとする。
「届けさせた。」
「私に?」
「ああ。」
「…………。」
よし。
今のは嫌われた。
そう思った。
しかし。
リリアはふわっと笑った。
「男爵様。」
「なんだ。」
「私、頼られたの初めてです。」
「……は?」
「だから。」
教科書を大事そうに胸へ抱く。
「嬉しかったです。」
「違う。」
「ふふっ。」
また笑っている。
どうしてだ。
俺は嫌がらせをしたんだぞ。
すると。
「男爵様。」
さらに別の声。
王女だった。
「やっぱり。」
「何がだ。」
「忘れ物をされる気がしていました。」
「……。」
なんで分かる。
王女は侍女から一冊のノートを受け取る。
「こちらも。」
「?」
「机の中へ残っていました。」
「……。」
二冊も忘れていたらしい。
「ありがとうございます。」
リリアが頭を下げる。
「私、一冊しか気付けませんでした。」
「いいえ。」
王女も優しく微笑む。
「一緒に届けられて良かったです。」
二人は顔を見合わせる。
笑顔。
笑顔なんだが。
「……。」
どこか火花が散っているようにも見える。
「男爵様。」
リリアが教科書を差し出す。
「はい。」
「男爵様。」
王女がノートを差し出す。
「こちらも。」
二人同時だった。
「……。」
俺は両方受け取る。
「ありがとう。」
何気なく言った。
一瞬だった。
二人とも動きが止まる。
「……え?」
リリアが目を丸くする。
「今。」
王女も驚いたように瞬きをした。
「お礼を……。」
「……。」
しまった。
つい口に出た。
「忘れろ。」
「無理です!」
リリアが即答した。
「一生忘れません!」
「私もです。」
王女まで微笑んでいる。
「男爵様からお礼を言われるなんて。」
「違う。」
もう遅かった。
翌日には学院中で噂になっていた。
『男爵様に「ありがとう」と言われたらしい。』
『羨ましい……。』
『私も忘れ物届けようかな。』
「……。」
俺は静かに机へ突っ伏した。
忘れ物一つで。
なんでこうなるんだ。
第34話を読んでいただきありがとうございます!
今回は「忘れ物」を利用して悪役らしく人を使う……はずが、また予想外の方向へ転がってしまいました。
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