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第33話 悪役なら荷物持ちにする

命令も失敗した。


 頼み事をすれば喜ばれる。


 怒鳴っても喜ばれる。


「……意味が分からん。」


 なら、もっと露骨に利用してやる。


 悪役なら人を道具のように扱うものだ。


 放課後。


 授業が終わり、俺は席を立った。


「リリア。」


「はい!」


 今日も元気よく返事をする。


「これを持て。」


 机の上に置いてあった教科書を全部リリアへ渡す。


「俺の荷物だ。」


「はい!」


 笑顔だった。


 まただ。


「全部だ。」


「大丈夫です!」


「重いぞ。」


「男爵様のお役に立てるなら!」


 嬉しそうに抱え込んでしまった。


「……。」


 違う。


 そういう反応じゃない。


 教室を出る。


 リリアは両手いっぱいに荷物を抱えながら俺の後ろを歩いていた。


「男爵様。」


「なんだ。」


「次はノートも持ちましょうか?」


「いらん。」


「遠慮しないでください!」


「遠慮じゃない。」


 その様子を見た女子生徒たちがざわつく。


「見て見て。」


「リリアさん、荷物持ってる。」


「恋人みたい。」


「きゃー!」


 リリアの耳が真っ赤になる。


「ち、違います!」


 慌てて否定する。


「私はただ頼まれただけで!」


「でも嬉しそう。」


「そ、そんなこと……。」


 否定しようとして。


 できなかった。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 嬉しかったから。


 その時だった。


「男爵様。」


 廊下の向こうから王女が歩いてきた。


 リリアの腕の中にある大量の教科書を見る。


「それは……。」


「俺の荷物だ。」


「リリアさんが?」


「ああ。」


 王女は静かにリリアを見る。


「重くありませんか?」


「全然大丈夫です!」


「そうですか。」


 王女は少しだけ笑った。


 そして。


「男爵様。」


「なんだ。」


「私もお持ちします。」


「は?」


「半分いただけますか?」


「……。」


 何を言ってるんだ、この人。


「結構だ。」


「遠慮なさらないでください。」


「遠慮じゃない。」


「私もお役に立ちたいんです。」


「……。」


 やめろ。


 王女に荷物持ちなんかさせたら、俺が処刑される。


 すると。


「殿下。」


 リリアが一歩前へ出た。


「これは私が頼まれたことですので。」


「……。」


 王女は少しだけ目を丸くした。


「そうでしたね。」


「はい。」


 リリアは笑顔で頷く。


 だが。


 二人の笑顔の奥には。


 お互いに譲れないものが少しずつ生まれ始めていた。


「男爵様。」


「なんだ。」


「早く帰りましょう!」


「そうですね。」


 二人の声が重なる。


「……。」


 俺は荷物を見た。


 そして二人を見た。


「自分で持つ。」


 一言だけそう言って、リリアから教科書を受け取る。


「え?」


「男爵様?」


「悪役でも。」


 小さく呟く。


「荷物くらい自分で持つ。」


 そう言って歩き出した。


 後ろでは。


 リリアと王女が顔を見合わせる。


「ふふっ。」


「……ふふ。」


 どちらからともなく笑みがこぼれた。


 その日の夕暮れ。


 学院では新しい噂が流れていた。


『男爵様は、二人の令嬢が荷物を持とうとしても、自分で持つほど紳士らしい。』


「……違う。」


 もちろん。


 そんな噂を流した覚えは一切なかった。

第33話を読んでいただきありがとうございます!


今回は「荷物持ち」という、いかにも悪役らしいことをしようとしたアルベルトでしたが、またしても周囲の評価は上がるばかりでした。


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク、★★★★★評価で応援していただけると、とても励みになります!


感想やレビューもお気軽にお待ちしております!


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