第32話 悪役なら女子をこき使う
無視も失敗した。
話しかけられれば返してしまう。
返せば勘違いされる。
「……なら。」
悪役らしく命令する。
しかも女の子相手だ。
これなら確実に嫌われる。
昼休み。
教室で席を立つ。
「リリア。」
「は、はい!」
名前を呼ばれた瞬間、リリアが嬉しそうに立ち上がる。
「これ。」
俺は読み終わった本を差し出した。
「図書館へ返してこい。」
「え?」
「今すぐ。」
悪役らしく命令口調で言う。
これなら間違いない。
嫌われる。
そう思った。
「わ、分かりました!」
リリアは本を大事そうに抱える。
「行ってきます!」
笑顔だった。
「……。」
違う。
笑うところじゃない。
その様子を見ていたルークがニヤニヤしながら近付いてくる。
「アルベルト。」
「なんだ。」
「リリアにだけ頼むんだな。」
「近くにいたからだ。」
「へぇ~。」
「なんだ。」
「いや、別に。」
意味深な笑みを浮かべるルーク。
その時だった。
「男爵様。」
王女が教室へ姿を見せた。
今日は侍女も一緒だ。
「こんにちは。」
「……。」
また来た。
「何の用だ。」
「少しお話を。」
「断る。」
「そう仰ると思っていました。」
王女は苦笑しながら俺の机を見る。
「あら?」
本がない。
「読書は終わったのですか?」
「返しに行かせた。」
「どなたに?」
「リリア。」
その一言だった。
王女の笑顔が一瞬だけ止まる。
「……そうですか。」
ほんの少しだけ。
声が小さくなった。
「殿下?」
侍女が心配そうに見る。
「なんでもありません。」
王女はいつもの笑顔に戻る。
だが。
視線だけは図書館の方向へ向いていた。
数分後。
リリアが戻ってくる。
「男爵様!」
少し息を切らしていた。
「返してきました!」
「そうか。」
「あとですね。」
リリアは嬉しそうに続ける。
「新刊も入っていましたよ!」
「興味ない。」
「男爵様なら好きそうだったので、借りてきちゃいました!」
そう言って本を差し出す。
「いらん。」
「えへへ。」
笑っている。
嫌われていない。
むしろ嬉しそうだ。
「……。」
どうしてだ。
俺は命令しただけなんだぞ。
教室の入口では。
王女がその光景を静かに見つめていた。
「殿下。」
侍女が小声で尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ。」
王女は優しく微笑む。
「少しだけ。」
窓の外へ視線を向ける。
「羨ましいな、と。」
その言葉は。
誰にも聞こえることはなかった。
第32話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルトが「命令」を使って悪役らしく振る舞おうとしました。
しかし本人の思惑とは裏腹に、リリアとの距離は少しずつ縮まり、王女もそれを意識するようになってきます。
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