第31話 悪役なら無視をする
昨日は失敗だった。
王女の隣へ座ったのに。
結局誰にも嫌われていない。
「……なら。」
話さなければいい。
無視だ。
悪役らしく、誰が話しかけても返事をしない。
これなら確実に嫌われる。
翌朝。
教室へ入る。
「おはようございます、男爵様!」
リリアが笑顔で手を振った。
「…………。」
返事はしない。
そのまま席へ座る。
「男爵様?」
「…………。」
無視。
完全に無視だ。
これでさすがに怒るだろう。
「……。」
リリアは少しだけ寂しそうな顔をした。
よし。
成功だ。
しかし。
「昨日のこと……。」
リリアは小さく呟いた。
「まだ気にしてるんだ。」
「?」
「私が勝手に邪魔しちゃったから……。」
勝手に納得した。
「ごめんなさい。」
俺は何も言っていない。
なのに。
「今日は静かにしてますね。」
「…………。」
違う。
そうじゃない。
すると今度はルークが近付いてくる。
「アルベルト!」
「…………。」
無視。
「聞いてるか?」
「…………。」
「なるほど!」
ルークは大きく頷いた。
「集中してるんだな!」
「違う。」
思わず返事をしてしまった。
「ほら!」
ルークが笑う。
「やっぱり返してくれた!」
「……。」
しまった。
つい反応した。
「男爵様。」
今度は教師だった。
「体調でも悪いのですか?」
「違う。」
「安心しました。」
「……。」
また失敗か。
昼休み。
教室を出ようとすると。
「男爵様。」
王女だった。
「少しだけ、お時間よろしいでしょうか。」
「…………。」
今度こそ無視だ。
俺はそのまま歩き続ける。
「男爵様。」
王女も歩幅を合わせて歩く。
「…………。」
「男爵様。」
「…………。」
「男爵様。」
「……なんだ。」
また返してしまった。
「ふふっ。」
王女は嬉しそうに笑う。
「今日は三回目でお返事してくださいました。」
「数えるな。」
「はい。」
全然反省していない。
その様子を少し離れた場所から見ていたリリアは、小さく頬を膨らませた。
「……。」
女子生徒が笑う。
「また見てる。」
「見てない。」
「じゃあ何見てるの?」
「……。」
答えられない。
王女と楽しそうに話す男爵様を見ると。
胸が少しだけ苦しくなる。
でも。
そんな気持ちを知られたくなくて。
「別に。」
そう言って笑うしかなかった。
一方。
「男爵様。」
王女が歩きながら微笑む。
「今日は何か怒っていらっしゃるんですか?」
「怒ってない。」
「良かったです。」
「……。」
良くない。
無視作戦も失敗した。
俺は静かにため息を吐いた。
悪役への道は。
今日もまた、一歩遠ざかるのだった。
第31話を読んでいただきありがとうございます!
今回は「無視」をテーマにしたお話でした。
アルベルト本人は嫌われようと必死ですが、周囲は相変わらず都合よく解釈してしまいます。
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