第30話 悪役なら片方だけ贔屓する
屋上。
俺の前にはリリア。
そして王女。
二人が同時に立っていた。
「男爵様。」
「男爵様。」
「……。」
なんなんだ。
昼飯くらい一人で食わせろ。
「こちらへどうぞ。」
リリアが俺の右隣を軽く叩く。
「いえ。」
王女も左隣を見ながら微笑んだ。
「こちらへ。」
「……。」
面倒だ。
なら。
悪役らしく片方だけ贔屓しよう。
そうすればもう片方には嫌われる。
完璧だ。
俺は迷わず歩き出す。
そして。
王女の隣へ腰を下ろした。
「……!」
リリアの肩が小さく震えた。
よし。
成功だ。
今のは効いただろう。
「ありがとうございます。」
王女は嬉しそうに微笑む。
「隣に座っていただけるなんて。」
「深い意味はない。」
「はい。」
分かっているような返事をする。
その横で。
「……。」
リリアは少し離れた場所へ座った。
笑っている。
笑っているが。
どこか無理をしているようにも見えた。
「リリア。」
「は、はい!」
「何か用か。」
「いえ。」
少し間を置いて笑う。
「お邪魔してしまいましたね。」
「?」
「今日は帰ります。」
立ち上がる。
「また明日。」
そう言って屋上を後にした。
その背中を。
王女は静かに見つめていた。
「殿下。」
侍女が小声で尋ねる。
「よろしかったのですか?」
「……。」
王女は少しだけ複雑そうな顔をする。
「きっと。」
「?」
「リリアさんは傷付いています。」
「では。」
「でも。」
王女は小さく微笑んだ。
「少しだけ。」
頬を赤く染める。
「嬉しかったです。」
一方。
屋上を出たリリアは。
「……。」
人気のない廊下で立ち止まっていた。
「リリア?」
女子生徒が声を掛ける。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。」
「泣いてる?」
「え?」
頬に触れる。
指先が少しだけ濡れていた。
「……あ。」
自分でも気付いていなかった。
どうして。
そんなに悲しかったんだろう。
「私……。」
男爵様が。
誰の隣へ座るか。
そんなことくらいで。
こんなにも胸が苦しくなるなんて。
「……変だな。」
リリアは涙を拭き、小さく笑った。
一方その頃。
「男爵様。」
王女が微笑む。
「今日はありがとうございました。」
「何もしてない。」
「ふふっ。」
王女は立ち上がる。
「またお話ししてくださいね。」
「断る。」
「また断られました。」
それでも嬉しそうだった。
二人が去ったあと。
屋上には俺だけが残る。
「……。」
パンを一口かじる。
「結局。」
今日も一人で食べられなかった。
悪役になるのは。
どうやら想像以上に難しいらしい。
第30話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルト本人は「片方に嫌われる」というつもりで行動しましたが、少しずつヒロインたちの感情にも変化が現れ始めました。
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