第29話 悪役なら嫌われる噂を流そう
罰も失敗した。
怒れば感謝される。
突き放せば尊敬される。
「……なら。」
悪評そのものを流せばいい。
噂だ。
自分で自分の悪い噂を流す。
これなら誰も近寄らなくなる。
昼休み。
俺は中庭へ向かう。
ベンチには数人の男子生徒が集まっていた。
「おい。」
「あっ、男爵様!」
「俺の話を聞け。」
「はい!」
全員が姿勢を正す。
聞く態勢だけは完璧だ。
「俺は最低な男だ。」
「……。」
「傲慢で。」
「はい。」
「冷酷で。」
「はい。」
「自己中心的だ。」
「なるほど。」
よし。
そのまま広めろ。
「だから近付くな。」
「分かりました!」
成功だ。
今度こそ成功した。
俺は満足してその場を去った。
数分後。
「聞いた?」
「聞いた!」
「男爵様、自分から欠点を教えてくれたらしいよ!」
「え?」
「近付くと迷惑を掛けるからって!」
「そんな……。」
「自分が悪者になってまで周りを気遣うなんて……。」
話が大きくなっていた。
一方。
「リリアさん。」
「はい?」
女子生徒が興奮気味に話し掛ける。
「男爵様って、自分を悪く言ってでも他人を遠ざける人だったんだね。」
「……。」
リリアは少しだけ寂しそうな顔をした。
「やっぱり。」
「え?」
「男爵様は、一人で全部抱え込もうとする人なんですね。」
胸が締め付けられる。
あんな言葉。
本心じゃないと分かっている。
でも。
誰にも頼ろうとしない姿を見ると。
少しだけ悲しくなった。
その様子を少し離れた場所から王女も見ていた。
「殿下。」
侍女が小声で話す。
「噂は本当でしょうか。」
「いいえ。」
王女は静かに首を横へ振る。
「男爵様は。」
優しく微笑む。
「人を遠ざけたいのではなく。」
少しだけ寂しそうに続けた。
「誰も巻き込みたくないだけなんでしょう。」
その言葉を聞いたリリアは。
「……。」
小さく拳を握る。
また。
王女に一歩先を行かれた気がした。
そして当の本人は。
「……。」
一人、屋上でパンを食べていた。
「静かだ。」
誰も来ない。
ようやく一人になれた。
そう思った、その時。
ガチャッ。
屋上の扉が開く。
「男爵様!」
「見つけました!」
「……。」
リリア。
王女。
二人同時だった。
しかも目が合う。
「……あ。」
「……。」
一瞬だけ沈黙が流れる。
そして。
「男爵様、お隣いいですか?」
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
二人の声が見事に重なった。
俺は空を見上げる。
「……静かに飯くらい食わせてくれ。」
その願いだけは。
今日も誰にも届かなかった。
第29話を読んでいただきありがとうございます!
悪評を広めるつもりが、またしても周囲には正反対に伝わってしまいました。
そして、リリアと王女の距離も少しずつ縮まる……のではなく、アルベルトを挟んで少しだけ意識し始めています。
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