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第26話 王女の来訪

翌日の昼休み。


 食堂へ向かおうと教室を出た瞬間だった。


「え?」


 廊下が妙に騒がしい。


「王女殿下だ!」


「本当に来てる!」


「なんで学院に?」


 生徒たちが次々と廊下へ集まっていく。


「……またか。」


 嫌な予感しかしない。


 人混みの先を見ると、見覚えのある金色の髪が揺れていた。


 王女だ。


 侍女を一人だけ連れ、こちらへ歩いて来る。


 そして。


「あっ。」


 俺を見つけると、嬉しそうに笑った。


「男爵様。」


「……。」


 逃げよう。


 そう思って踵を返す。


「男爵様!」


 回り込まれた。


「逃げないでください。」


「逃げてない。」


「今、逃げましたよね?」


「歩く方向を変えただけだ。」


「ふふっ。」


 王女は楽しそうだった。


「少しだけ、お話ししませんか?」


「断る。」


「五分だけ。」


「嫌だ。」


「三分。」


「一分でも嫌だ。」


 周囲の生徒たちがざわつく。


「また断った。」


「王女殿下を……。」


「すごい。」


 すごくない。


 普通だ。


「男爵様。」


 王女は少しだけ頬を膨らませた。


「私、何か嫌われることをしましたか?」


「してない。」


「でしたら。」


「面倒なんだ。」


 その一言で。


 王女は少しだけ動きを止めた。


「……。」


 しまった。


 少し言い過ぎたか。


 よし。


 これで嫌われる。


 悪役として成功だ。


 しかし。


「そうですよね。」


 王女は困ったように笑った。


「王族と話すのは疲れますよね。」


「そういう意味じゃない。」


「私も立場上、気軽に話しかけられないことは分かっています。」


 違う。


 本人が面倒なんだ。


「ごめんなさい。」


 王女は小さく頭を下げた。


「少し浮かれていました。」


「……。」


 初めてだった。


 今まで何を言っても勘違いされていたのに。


 少しだけ寂しそうな笑顔だった。


 すると。


「殿下。」


 リリアが歩み寄ってくる。


「お久しぶりです。」


「あら。」


 王女が優しく微笑んだ。


「リリアさんでしたね。」


「はい。」


 二人は知り合いらしい。


「男爵様を困らせてはいけませんよ。」


 リリアが笑いながら言う。


「男爵様は一人の時間がお好きなんです。」


「……そうなのですか?」


「はい。」


 王女は少しだけ俯いた。


「知りませんでした。」


 その表情を見て。


 リリアも少しだけ胸が痛くなった。


 なんとなく。


 王女へ勝ったような気持ちになってしまった自分がいたから。


「……。」


 嫌な子にはなりたくない。


 そう思うのに。


 男爵様のことになると。


 少しだけ、心が狭くなる。


 一方。


「……。」


 俺は何も気付いていなかった。


 二人が微笑みながら話している。


 それだけにしか見えない。


「じゃあ俺は行く。」


「あっ。」


 王女とリリアが同時に声を上げる。


「……?」


 二人は顔を見合わせる。


 そして。


「先にどうぞ。」


「いえ、殿下こそ。」


 互いに譲り合いながら笑っていた。


「仲良いんだな。」


 俺はそう呟いて食堂へ向かった。


 その言葉に。


 二人は同時に苦笑いを浮かべるしかなかった。

第26話を読んでいただきありがとうございます!


今回は王女とリリアが初めてしっかり顔を合わせる回となりました。


アルベルトだけは何も気付いていませんが、ヒロインたちの心境には少しずつ変化が生まれ始めています。


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