第21話 悪役なら遅刻くらいする
翌朝。
俺は自室で時計を眺めていた。
「……そろそろか。」
授業開始まであと十分。
普通なら急いで教室へ向かう時間だ。
だが。
「悪役なら遅刻くらいして当然だ。」
教師を待たせる。
生徒を待たせる。
それくらい傲慢でなくては悪役とは言えない。
俺はゆっくり制服を整えた。
廊下を歩く速度もいつもの半分。
焦る必要はない。
「坊ちゃま!」
校舎の入口でリリアと鉢合わせた。
「急がないと授業に間に合いません!」
「知ってる。」
「でしたら!」
「急がん。」
そのまま歩き続ける。
リリアは慌てて隣を歩き始めた。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃなくても構わん。」
「先生に怒られますよ?」
「それでいい。」
教師に怒られる。
悪役としては理想だ。
数分後。
教室の前へ着く。
中から教師の声が聞こえてきた。
「……始まってるな。」
俺は何の躊躇もなく扉を開けた。
ガラッ。
教室中の視線が集まる。
「アルベルト君。」
教師が穏やかに微笑む。
「遅刻ですよ。」
「ああ。」
短く返事をする。
「理由は?」
「寝坊だ。」
本当は違う。
わざとだ。
しかし、そう言えば確実に怒られる。
そう思っていた。
「そうですか。」
教師は少しだけ頷いた。
「では席へ。」
「……終わりか?」
「はい?」
「怒らないのか。」
教師は少しだけ困ったように笑った。
「昨日、学院長から聞きました。」
「何を。」
「男爵家のお仕事もあり、お疲れだろうから無理はさせないように、と。」
「…………。」
学院長。
余計なことを。
「さすが男爵様。」
「領地と学院を両立されているなんて。」
「私なら絶対無理……。」
教室中が感心したような空気になる。
「違う。」
俺はわざと遅刻しただけだ。
仕事なんて理由じゃない。
「男爵様。」
リリアが小声で笑う。
「ちゃんと休むことも大切ですよ。」
「違う。」
その時。
後ろの席のルークが立ち上がった。
「先生!」
「どうしました?」
「俺も明日から遅刻します!」
「駄目です。」
「え?」
「ルーク君は昨日、夜遅くまでカードゲームをしていたそうですね。」
「……なんで知ってるんですか。」
教室中が笑いに包まれた。
「ぶはっ!」
「全然理由が違うじゃない!」
「男爵様と一緒にするな!」
ルークは顔を真っ赤にして席へ座る。
「くそぉ……。」
俺は静かに窓の外を眺めた。
悪役らしく遅刻したはずなのに。
なぜか教師からもクラスメイトからも心配されて終わった。
「……次は絶対に嫌われる。」
誰にも聞こえないよう、小さく呟くのだった。
第21話を読んでいただきありがとうございます!
今回は「悪役らしく遅刻する」という計画でしたが、今回もアルベルトの思惑は見事に外れてしまいました。
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