第2話 まずは使用人からだ
第2話です。
今回は主人公が最初の悪役らしい行動に挑戦します。
もちろん本人は大真面目ですが、周囲はそう受け取ってくれません。どんな勘違いになるのか楽しんでいただければ幸いです。
悪役になる。
その決意は変わらない。
まずは手始めに、一番近くにいる使用人から嫌われることにしよう。
それが悪役への第一歩だ。
俺はベッドから立ち上がると、部屋の隅で待機していたメイドへ視線を向けた。
「おい。」
「はい、坊ちゃま。」
エレナは綺麗な姿勢で頭を下げる。
「腹が減った。」
「すぐにご用意いたします。」
「……違う。」
悪役なら、そんな普通の頼み方はしない。
もっと横暴に。
もっと理不尽に。
「今すぐ持ってこい。」
「かしこまりました。」
「最高級の肉料理だけだ。スープもパンもいらん。」
「承知いたしました。」
「あと、五分以内だ。」
「はい。」
エレナは慌てる様子もなく一礼し、部屋を出ていった。
「……。」
あれ?
怒らないのか。
普通なら『そんな無茶です!』とか言う場面じゃないのか?
数分後。
本当に五分もしないうちに、大量の料理が運ばれてきた。
焼きたての肉。
香草の香りが漂うソース。
色鮮やかな野菜。
「お待たせいたしました。」
「……。」
早い。
思っていたよりずっと有能だ。
いや、感心している場合じゃない。
俺は悪役なんだ。
「味見はしたんだろうな?」
「はい。毒見も済ませております。」
「なら全部下げろ。」
「……え?」
「気が変わった。」
料理を一口も食べずに捨てる。
最低な貴族らしい行動だ。
これなら確実に嫌われる。
「もったいないですので、厨房の皆へ配ってもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ。」
「ありがとうございます!」
エレナは嬉しそうに料理を抱えて部屋を出ていった。
「…………。」
なんで礼を言われた?
数分後。
廊下の向こうから歓声が聞こえてきた。
「男爵様が料理をくださった!」
「厨房のみんなで食べていいなんて!」
「いつも俺たちのことを気に掛けてくださる!」
「なんてお優しい……!」
「…………。」
違う。
違う違う。
そうじゃない。
捨てさせようとしただけだ。
なのに、どうして感謝されている。
その時、エレナが戻ってきた。
「坊ちゃま。」
「なんだ。」
「厨房のみんな、とても喜んでいました。」
「そうか。」
「『男爵様のお心遣いは絶対に忘れません』と。」
「知らん。」
どうなってるんだ、この屋敷は。
悪事を働いたはずなのに。
使用人の好感度が上がっている気しかしない。
いや、まだだ。
今回はたまたまだ。
次はもっと分かりやすく嫌われることをしてやる。
俺は静かにそう誓った。
もちろん、その決意も盛大に空回りすることなど、この時は知る由もなかった。
第2話を読んでいただきありがとうございます!
アルベルトは本気で悪役を目指していますが、周囲はどんどん勘違いしていきます。
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