第181話 悪役なら最後の景色を見る
グランディア領。
季節が巡る。
春。
夏。
秋。
冬。
そして。
また春。
「……。」
窓の外を見る。
街は変わっていく。
新しい建物。
新しい店。
新しい人々。
しかし。
変わらないものもある。
笑い声。
人との繋がり。
帰ってくる場所。
「男爵様。」
リリアが紅茶を置く。
「今日は。」
「何だ。」
「少し外へ行きませんか?」
「……。」
珍しい。
「どこへ。」
「昔の場所です。」
「昔?」
向かった先。
領地の外れ。
最初に。
この土地を見た場所。
「……。」
懐かしい。
転生して。
初めてこの世界を歩いた場所。
あの時。
何を考えていたか。
覚えている。
生き残ること。
嫌われること。
誰にも頼らないこと。
「変わりましたね。」
リリアが言う。
「ああ。」
周囲を見る。
昔は何もなかった。
今は。
小さな村。
畑。
子供たちの声。
「ここから。」
「全部始まったんですね。」
「……。」
確かに。
大きな戦いでも。
重要な場所でもない。
ただ。
一歩目だった。
「男爵様。」
「はい。」
「もし。」
「ここに来なかったら。」
少し考える。
「分からない。」
本当に。
別の人生だったかもしれない。
でも。
「……。」
「来てよかった。」
自然に出た。
リリアは微笑む。
「聞けてよかったです。」
帰り道。
街へ戻る。
途中。
若い領主候補たちが待っていた。
「男爵様。」
「何だ。」
「相談があります。」
「……。」
昔なら。
面倒だと思った。
今は。
「聞こう。」
足を止める。
相談。
悩み。
未来の話。
それを聞く。
夜。
屋敷。
庭。
「疲れましたか?」
リリアが聞く。
「少し。」
「でも。」
「嫌ではない。」
リリアが笑う。
「それが一番変わったところですね。」
空を見る。
昔。
力を得た。
名誉を得た。
世界から注目された。
でも。
最後に残ったもの。
それは。
誰かの話を聞く時間。
誰かと笑う時間。
普通の日々。
「……。」
その時。
イリスが静かに現れる。
「報告があります。」
「まだあるのか。」
「はい。」
「ですが。」
「最後ではありません。」
「?」
イリスは空を見る。
「世界管理システムではなく。」
「この世界そのものの記録です。」
光が浮かぶ。
『時代記録』
『新たな時代へ移行』
『旧時代の象徴』
『アルベルト・フォン・グランディア』
「……。」
「旧時代。」
少し寂しい言葉。
しかし。
イリスは続ける。
『役割完了』
『次の時代へ継承』
「……。」
俺は笑う。
「そうか。」
役割は終わる。
でも。
それは消えることではない。
次へ渡ることだ。
「男爵様。」
リリアが言う。
「寂しいですか?」
「……。」
少し考える。
「少し。」
正直に答える。
「でも。」
「嬉しい方が大きい。」
空を見る。
次の時代。
自分が知らない未来。
それを。
見てみたいと思った。
第181話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルトが「始まりの場所」を訪れ、これまでの道のりを振り返る回でした。
役割が終わることは、失うことではなく次の世代へ渡すこと。
アルベルトはようやく、自分がいなくても続く未来を安心して受け入れられるようになりました。




