第180話 悪役なら次の世代へ渡す
グランディア交流学校。
今日は。
特別授業の日だった。
「……。」
教室を見る。
昔。
この場所ができるなんて。
想像もしていなかった。
黒板。
机。
生徒たち。
普通の学校。
しかし。
ここには。
大きな意味がある。
「男爵様。」
先生が言う。
「本日はありがとうございます。」
「何をする。」
「生徒たちから質問があります。」
「……。」
予想していなかった。
だが。
席に座る。
「質問がある者は?」
一人目。
魔族の少年。
「男爵様は。」
「どうして人間を信じられたんですか?」
「……。」
少し考える。
簡単な答えではない。
「最初から。」
「信じていたわけではない。」
生徒たちは驚く。
「え?」
「疑った。」
「怖がった。」
「距離を置いた。」
昔の自分。
「でも。」
「話した。」
「知った。」
「それで。」
「少しずつ変わった。」
少年は頷く。
二人目。
人間の少女。
「男爵様は。」
「強いから成功したんですか?」
「……。」
これも。
昔なら。
力だと答えたかもしれない。
「違う。」
「じゃあ。」
「何ですか?」
「失敗しても。」
「やめなかったからだ。」
教室が静かになる。
「間違えることはある。」
「判断を誤ることもある。」
「でも。」
「そこで終わらなければいい。」
窓の外。
街を見る。
「この領地も。」
「最初から今の形だったわけではない。」
「失敗して。」
「話し合って。」
「少しずつ変わった。」
生徒たちは真剣に聞いている。
「最後の質問です。」
先生が言う。
「男爵様にとって。」
「一番大切なものは何ですか?」
「……。」
少し考える。
昔なら。
答えは。
力。
自由。
孤独。
そんなものだった。
今は。
「帰る場所だ。」
「……。」
「安心して戻れる場所。」
「誰かが待っている場所。」
「それがあるから。」
「また前へ進める。」
授業が終わる。
廊下。
「男爵様。」
リリアが言う。
「先生みたいでしたね。」
「そうか?」
「はい。」
「昔の男爵様からは。」
「想像できません。」
「……。」
夕方。
屋敷。
書斎。
机の上。
新しい記録。
『未来への言葉』
生徒たちがまとめたもの。
最初のページ。
『アルベルト男爵から学んだこと』
「……。」
少し読む。
恥ずかしい。
「捨てますか?」
リリアが冗談で言う。
「……。」
「いや。」
「残す。」
「珍しいですね。」
「未来の誰かが。」
「読むかもしれない。」
窓を見る。
昔。
自分が残したかったもの。
悪役としての記録。
恐れられた証。
今。
残したいものは。
誰かが前へ進むための言葉。
夜。
庭。
「男爵様。」
イリスが来る。
「最後の記録。」
「またか。」
「今回は。」
「世界管理システムではありません。」
「?」
「未来の人々による記録です。」
紙を見る。
『アルベルト・フォン・グランディア』
『最も印象に残ったこと』
『世界を救ったこと』
『ではなく』
『いつも話を聞いてくれたこと』
「……。」
少し目を閉じる。
それで。
十分だった。
第180話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルトが「力を残す」のではなく、「考え方や経験を次の世代へ渡す」回でした。
かつて誰とも関わろうとしなかった彼が、今では誰かの道標になる存在になっています。




