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第179話 悪役なら残された時間を大切にする

 グランディア領。


 世界管理システムの観測が終わってから。


 何か大きな変化が起きると思っていた。


 しかし。


「……。」


 何も起きない。


 朝が来る。


 仕事をする。


 街を見る。


 夜になる。


 それだけ。


 でも。


 今は。


 その「それだけ」が。


 何より大切だった。


「男爵様。」


 リリアが書類を置く。


「今日は少し休んでください。」


「仕事がある。」


「あります。」


「ですが。」


「休むことも領主の仕事です。」


「……。」


 昔なら。


 そんな言葉は聞かなかった。


 自分が動けばいい。


 自分がやればいい。


 そう思っていた。


 でも。


 今は。


「分かった。」


 リリアが少し驚く。


「素直ですね。」


「……。」


「何度も言うな。」


「はい。」


 午後。


 街へ出る。


 特に目的はない。


 ただ歩く。


 店を見る。


 人を見る。


「男爵様!」


 商人が声をかける。


「新しい商品です!」


「またか。」


 見る。


 魔法と技術を組み合わせた道具。


 昔では考えられないもの。


「便利そうだな。」


「ありがとうございます!」


 商人が嬉しそうに笑う。


 その顔を見る。


 これが。


 守りたかったものなのだと思う。


 夜。


 屋敷。


 庭。


「男爵様。」


 リリアが言う。


「もし。」


「もう一度人生をやり直せるなら。」


「どうしますか?」


「……。」


 また。


 昔を思い出す質問。


 転生した日。


 悪役になると決めた日。


 もし戻れるなら。


「同じ道を選ぶ。」


 リリアが驚く。


「本当に?」


「ああ。」


「もっと早く人を信じればよかったとは思う。」


「でも。」


「それも含めて。」


「今の俺になった。」


 リリアは微笑む。


「後悔していないんですね。」


「ない。」


 空を見る。


 長い人生だった。


 戦い。


 出会い。


 別れ。


 全部。


 無駄ではなかった。


 その時。


「アルベルト。」


 レオンハルトが来る。


「珍しいな。」


「何が。」


「お前が何もない日に来ることだ。」


 レオンハルトは笑う。


「今日は。」


「ただ話をしに来た。」


「……。」


 昔なら。


 意味が分からなかった。


 今なら。


 分かる。


 何か目的がなくても。


 誰かと過ごす時間には価値がある。


 三人で庭に座る。


 昔の話。


 くだらない話。


 未来の話。


「……。」


 こういう時間も。


 悪くない。


 深夜。


 一人になった庭。


 月を見る。


 世界を救う力はない。


 特別な存在でもない。


 ただの領主。


 それでいい。


 その時。


 屋敷から声。


「男爵様。」


 リリア。


「まだ起きていたんですか。」


「少しな。」


「明日は。」


「交流学校の子供たちが来ます。」


「……。」


「分かった。」


 未来。


 次の世代。


 まだ見届けたいものはある。


「悪役として始めた人生なのに。」


 小さく呟く。


「忙しいな。」


 でも。


 その忙しさは。


 嫌ではなかった。

第179話を読んでいただきありがとうございます!


世界の大きな問題が解決した後だからこそ描ける、アルベルトの「何気ない日常」の回でした。


かつて孤独を求めていた彼が、今では誰かと過ごす時間を大切にしています。

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