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第178話 悪役なら未来を信じて眠る

 グランディア邸。


 朝。


「……。」


 目を覚ます。


 いつもの朝。


 窓から差し込む光。


 鳥の声。


 遠くから聞こえる街の音。


 変わらない。


 だからこそ。


 安心する。


「男爵様。」


 リリアが扉を開ける。


「おはようございます。」


「ああ。」


「今日は予定があります。」


「何だ。」


「交流学校の視察です。」


「……。」


 少し笑う。


「また学校か。」


「大切な場所ですから。」


「そうだな。」


 馬車で向かう。


 昔なら。


 移動時間すら面倒だった。


 今は。


 窓の外を見る。


 街。


 人。


 変化。


 それを見る時間も悪くない。


 学校。


 校庭では。


 生徒たちが走っている。


「男爵様!」


 気付いた生徒が手を振る。


 手を振り返す。


 自然に。


「……。」


 昔の自分なら。


 絶対にしなかった。


「アルベルト様。」


 セレナが言う。


「今。」


「笑っていましたよ。」


「……。」


「そうか。」


「はい。」


 教室を見る。


 授業中。


 人間の先生。


 魔族の先生。


 同じ場所で教えている。


「先生。」


 一人の生徒が質問する。


「昔は。」


「どうして人間と魔族は争っていたんですか?」


 先生は少し考える。


「お互いを知らなかったからです。」


「……。」


「知らないものは怖い。」


「怖いものとは戦いたくなる。」


「でも。」


「話せば分かることもあります。」


 生徒たちは頷く。


 その様子を見る。


「……。」


 昔。


 俺も。


 知らないものを怖がっていた。


 人との距離。


 未来。


 自分自身。


 でも。


 今は。


 違う。


 屋敷へ戻る。


 夕方。


 庭。


 紅茶。


「男爵様。」


 リリアが言う。


「最近。」


「穏やかですね。」


「そうか?」


「はい。」


「以前は。」


「いつ何か起きるか警戒していました。」


「……。」


 確かに。


 いつも。


 何か失うことを恐れていた。


 でも。


「今は。」


「信じている。」


「何をですか?」


「この場所を。」


 リリアが微笑む。


「……。」


 夜。


 書斎。


 机の上。


 一冊の記録。


『グランディア領の歩み』


 最後のページ。


 まだ空白。


「……。」


 何を書くべきか。


 考える。


 英雄の記録。


 そんなものではない。


 ただ。


「今日も平和だった。」


 それでいい。


 ペンを置く。


 その時。


 イリスが現れる。


「報告があります。」


「最後の確認か?」


「はい。」


 光が浮かぶ。


『最終観測』


『確認事項』


『アルベルト・フォン・グランディア』


『未来を信じることができるか』


「……。」


 答えは。


 もう決まっていた。


「ああ。」


「できる。」


 光が消える。


『確認完了』


『記録終了』


 リリアが笑う。


「終わったんですね。」


「そうみたいだ。」


 庭へ出る。


 空を見る。


 星。


 昔。


 孤独の中で見ていた空。


 今。


 大切な場所の上にある空。


「……。」


 明日も。


 朝は来る。


 それを。


 疑わなくなった。


 悪役として始まった人生。


 最後に手に入れたものは。


 未来を信じられる心だった。

第178話を読んでいただきありがとうございます!


今回はアルベルトが「未来を恐れる側」から「未来を信じる側」になったことを描く回でした。


世界管理システムの観測も終了し、アルベルト自身の成長は一つの区切りを迎えました。

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