第173話 悪役なら誰かに任せる強さを知る
グランディア領。
領主館。
「……。」
机の上。
書類の山。
昔なら。
全部自分で処理していた。
自分が確認しなければ。
自分が判断しなければ。
そう思っていた。
「男爵様。」
セレナが声をかける。
「その書類。」
「全部確認するつもりですか?」
「……。」
「ああ。」
セレナは少し困った顔をする。
「以前の癖ですね。」
「何が。」
「全部自分で背負うところです。」
「……。」
否定できない。
力を持っていた頃。
自分ならできると思っていた。
世界の危機。
未知の敵。
全て。
自分が前に出ればいい。
そう考えていた。
しかし。
「男爵様。」
セレナが一枚の書類を分ける。
「こちらは私が確認します。」
「……。」
「こちらはイリスが。」
「こちらは若い領主候補たちに任せられます。」
「……。」
任せる。
昔の自分が。
一番苦手だったこと。
「大丈夫なのか。」
セレナは笑う。
「信用してください。」
「……。」
その言葉。
昔なら。
疑っていた。
でも。
今は。
「分かった。」
書類を渡す。
セレナが少し驚く。
「素直ですね。」
「失礼だな。」
「以前なら。」
「絶対に一度は確認していました。」
「……。」
確かに。
午後。
領地視察。
若い領主候補たちが案内する。
「こちらが新しい商業区です。」
「今年から。」
「人間と魔族の共同店舗が増えました。」
「……。」
説明を聞く。
以前なら。
自分で全部調べた。
今は。
彼らの言葉を聞く。
「問題は?」
「あります。」
青年は答える。
「ですが。」
「自分たちで解決方法を考えています。」
「……。」
少し笑う。
「なら。」
「任せる。」
青年たちは驚く。
「本当にですか?」
「ああ。」
「男爵様が確認しなくても?」
「必要なら相談しろ。」
「でも。」
「全部を俺が決める必要はない。」
その言葉。
自分自身に言っているようでもあった。
夜。
庭。
「男爵様。」
リリアが言う。
「嬉しそうですね。」
「そうか?」
「はい。」
「皆さんが成長しているからですか?」
「……。」
考える。
昔。
自分が必要とされることを望んでいた。
誰にも頼られない孤独が嫌だった。
でも。
今。
自分が必要なくなることが。
少し嬉しい。
「俺がいなくても。」
「この領地が続くなら。」
「それが一番いい。」
リリアは微笑む。
「それ。」
「昔の男爵様が聞いたら。」
「信じないでしょうね。」
「……。」
その時。
イリスが現れる。
「報告です。」
「何だ。」
「未来予測。」
「更新されました。」
「またか。」
「はい。」
空に文字が浮かぶ。
『アルベルト・フォン・グランディア』
『依存度』
『低下』
『世界安定度』
『上昇』
「……。」
イリスが続ける。
「あなたが必要とされなくなるほど。」
「世界は安定しています。」
「……。」
少しだけ。
胸が温かくなる。
「なら。」
「成功したんだな。」
リリアが頷く。
「はい。」
悪役として始まった人生。
最後に目指したものは。
自分がいなくても大丈夫な世界だった。
第173話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルトが「自分が必要であり続けること」ではなく、「自分がいなくても続く未来」を本当の成功として受け入れる回でした。
力を失ったことで、さらに人との信頼や任せることの大切さを学んでいきます。




