第172話 悪役なら失った力と向き合う
グランディア領。
朝。
「……。」
庭。
いつもの場所。
紅茶。
風。
平和な時間。
しかし。
以前とは違う。
俺は。
もう特別な力を持っていない。
「男爵様。」
リリアが言う。
「まだ気になりますか?」
「何が。」
「力のことです。」
「……。」
少し沈黙。
正直。
最初の日は。
少しだけ違和感があった。
危険を感じ取れない。
世界の変化が分からない。
以前なら。
すぐに気付けたことが。
今は分からない。
「不便ではある。」
リリアが心配そうに見る。
「でも。」
続ける。
「失ったとは思っていない。」
「……。」
「必要な時期が終わっただけだ。」
リリアは微笑む。
「そう言えるようになったんですね。」
午後。
領地の訓練場。
若者たちが剣の練習をしている。
「男爵様!」
一人が声をかける。
「少し見てもらえませんか?」
「……。」
木剣を受け取る。
振る。
昔なら。
魔力を使えば簡単だった。
今は。
ただの人間の動き。
しかし。
「力みすぎだ。」
「え?」
「相手を倒そうとしている。」
「だから動きが読まれる。」
「……。」
少年は驚く。
「魔法を使わなくても分かるんですね。」
「経験だ。」
そう。
残ったものはある。
力ではない。
知識。
経験。
出会った人々から学んだもの。
夜。
屋敷。
リリアと話す。
「男爵様。」
「はい。」
「もし。」
「もう一度だけ。」
「以前の力を戻せると言われたら。」
「どうしますか?」
「……。」
考える。
世界を見渡せる力。
絶対的な力。
全てを守れる力。
昔なら。
迷わなかった。
今は。
「断る。」
即答。
「理由は?」
「もう。」
「俺だけが守る必要はないからだ。」
「……。」
窓の外。
街。
学校。
研究施設。
人々。
「皆。」
「自分たちで歩いている。」
「なら。」
「俺だけが特別である必要はない。」
リリアは嬉しそうに笑う。
「本当に。」
「変わりましたね。」
「……。」
その時。
珍しく。
イリスが慌てて入ってくる。
「報告があります。」
「何だ。」
「世界管理システムから。」
「?」
もう終わったはず。
「観測ではありません。」
「記録です。」
光が浮かぶ。
『最終確認』
『アルベルト・フォン・グランディア』
『力を失った後の行動』
『確認』
『結果』
少し間。
『変化なし』
『評価』
『力ではなく意思によって世界へ影響を与え続けている』
「……。」
イリスが続ける。
「つまり。」
「あなたは。」
「力を失っても。」
「変わらなかったということです。」
少し考える。
「それは。」
「良いことなのか?」
リリアが答える。
「はい。」
「きっと。」
庭を見る。
昔。
力があれば何でもできると思っていた。
今。
力がなくても。
できることがあると知っている。
「……。」
「普通も。」
「悪くないな。」
第172話を読んでいただきありがとうございます!
力を失った後のアルベルトが、「力があるから価値がある」のではなく、「本人の考え方や行動こそが大切だった」と確認する回でした。
最初は力を求め、最後には力に頼らず生きる。
アルベルトの変化がここでも描かれています。




