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第170話 悪役なら最後の選択をする

 グランディア邸。


 夜。


 庭。


 いつもの場所。


「……。」


 静かだ。


 しかし。


 今日は。


 少し違う。


 世界管理システム。


 最後の観測。


『あなた自身が最後に何を選ぶか』


 その言葉が残っている。


「男爵様。」


 リリアが隣に座る。


「考えていますね。」


「ああ。」


「珍しいです。」


「何が。」


「世界のことではなく。」


「自分のことを。」


「……。」


 確かに。


 これまで。


 考えてきたのは。


 領地。


 仲間。


 世界。


 未来。


 自分自身のことは。


 後回しだった。


「最後の選択。」


 イリスが現れる。


「確認します。」


 空に文字が浮かぶ。


『選択肢』


『第一』


『世界の守護者として永遠に存在する』


「……。」


『第二』


『全ての力を失い、普通の人間として生きる』


『第三』


『世界を離れ、新たな場所へ進む』


 沈黙。


 昔なら。


 迷わなかったかもしれない。


 力。


 永遠。


 そんなものを選ぶ理由は。


 もうない。


「アルベルト様。」


 セレナが言う。


「答えは。」


「……。」


 庭を見る。


 屋敷。


 街。


 人々。


 守りたいもの。


 でも。


 守るために。


 ここから離れられない存在になる必要はない。


「第二だ。」


 即答。


 イリスが確認する。


「力を失います。」


「ああ。」


「世界を守る能力も。」


「ああ。」


「それでも?」


「ああ。」


 リリアが少し驚く。


「怖くないんですか?」


「……。」


 考える。


 昔。


 力がなければ。


 何もできないと思っていた。


 弱ければ。


 傷つくと思っていた。


 でも。


 今は。


「俺がいなくても。」


「この世界は続く。」


「……。」


「それが。」


「一番嬉しい。」


 光が広がる。


『選択確認』


『守護者ではなく』


『住人として生きる』


『承認』


 力が消えていく。


 世界外側を見る力。


 特殊な能力。


 全て。


 少しずつ消える。


「……。」


 何かを失った感覚。


 しかし。


 不思議と。


 寂しくない。


 むしろ。


 軽い。


「終わりました。」


 イリスが言う。


「世界管理システムによる観測。」


「完全終了。」


 空の文字。


 最後の記録。


『アルベルト・フォン・グランディア』


『評価』


『世界を変えた者』


『ではなく』


『世界と共に生きた者』


「……。」


 その夜。


 庭。


 紅茶。


 いつもの時間。


「本当に。」


 リリアが言う。


「普通になりましたね。」


「そうだな。」


「後悔は?」


「ない。」


 空を見る。


 星。


 昔。


 欲しかったもの。


 自由。


 孤独。


 誰にも縛られない生活。


 今。


 手に入れた。


 ただ。


 隣には。


 大切な人たちがいる。


 それだけ。


「明日から。」


 リリアが聞く。


「何をしますか?」


「仕事だ。」


「……。」


「普通ですね。」


「ああ。」


 それでいい。


 悪役として始まった人生。


 最後に選んだのは。


 英雄でも。


 神でもなく。


 一人の領主として生きることだった。

第170話を読んでいただきありがとうございます!


世界管理システム最後の観測項目が終了しました。


アルベルトは「永遠の守護者」ではなく、「この世界で生きる一人の住人」という道を選びました。


ただ力を失うことではなく、世界を信じて任せることが、彼にとって本当の成長になりました。

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