第167話 悪役なら普通の日々を選ぶ
グランディア領。
朝。
鳥の声。
街の音。
いつもの景色。
「……。」
窓から見る。
昔なら。
退屈だと思っていたかもしれない。
刺激がない。
変化がない。
何も起きない。
でも。
今は。
「悪くない。」
自然にそう思う。
「男爵様。」
リリアが部屋へ入る。
「朝食の時間です。」
「分かった。」
席へ向かう。
そこには。
いつもの仲間たち。
セレナ。
イリス。
そして。
時々来るレオンハルト。
「……。」
不思議だ。
昔。
誰かと食事をすることなど。
考えもしなかった。
しかし。
今では。
この時間が。
一日の中で好きな時間になっている。
「アルベルト。」
レオンハルトが言う。
「最近。」
「本当に普通の領主になったな。」
「……。」
「悪いか。」
「いや。」
レオンハルトは笑う。
「むしろ。」
「一番似合っている。」
「……。」
食事の後。
領主の仕事。
書類を見る。
問題を確認する。
相談を聞く。
特別なことではない。
でも。
これが。
この領地を守ることなのだと思う。
「男爵様。」
若い領主候補が来る。
「相談があります。」
「聞こう。」
昔。
誰かに相談されることなど。
なかった。
今は。
頼られる。
「この判断で良いのか。」
「不安です。」
青年が言う。
俺は少し考える。
「不安なら。」
「考えている証拠だ。」
「え?」
「何も考えない人間は。」
「不安にもならない。」
青年は驚く。
「……。」
「だから。」
「その不安を消すために。」
「調べろ。」
「話を聞け。」
「最後は。」
「自分で決めろ。」
青年は頷く。
「はい。」
夕方。
街を歩く。
子供たちが走っている。
学校帰り。
笑い声。
「……。」
世界を救った。
そんな大きな実感はない。
でも。
この笑顔を見ると。
やってきたことは。
間違いではなかったと思える。
夜。
庭。
リリアと紅茶。
「男爵様。」
「何だ。」
「もし。」
「転生した最初の日に戻れたら。」
「どうしますか?」
「……。」
突然の質問。
考える。
あの日。
悪役になると決めた自分。
孤独を選ぼうとした自分。
「……。」
「同じことをする。」
リリアが驚く。
「え?」
「ただし。」
「少しだけ違う。」
「?」
「最初から。」
「誰かを信用する。」
リリアは嬉しそうに笑う。
「それは。」
「大きな変化ですね。」
「ああ。」
空を見る。
過去は変えられない。
でも。
過去があったから。
今がある。
その時。
屋敷の鐘が鳴る。
「……。」
珍しい時間。
「何か来たな。」
執事が急いで来る。
「男爵様。」
「報告です。」
「何だ。」
「交流学校の生徒たちが。」
「ある提案を持ってきました。」
「……。」
リリアが笑う。
「また未来からですね。」
「……。」
未来。
それは。
もう怖いものではなかった。
第167話を読んでいただきありがとうございます!
今回はアルベルトが「普通の日常」の価値を受け入れる回でした。
大きな戦いや使命ではなく、相談を聞くこと、食事をすること、街を見ること。
そういう小さな積み重ねこそ、アルベルトが最後に守りたいものになっています。




