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第166話 悪役なら最後の観測を見る

 グランディア邸。


 夜。


 庭。


 いつもの場所。


「……。」


 空を見る。


 昔なら。


 この時間は。


 誰とも話さず。


 一人で過ごしていた。


 今は。


「男爵様。」


 リリアがいる。


「何だ。」


「静かですね。」


「ああ。」


「嫌ではないですか?」


「……。」


 考える。


 昔の静けさ。


 今の静けさ。


 同じ言葉なのに。


 意味は全く違う。


「嫌ではない。」


 リリアが微笑む。


「良かったです。」


 その時。


 空に光が現れる。


「……。」


 イリス。


「世界管理システムからです。」


「最後の観測結果。」


「来たか。」


 光が文字になる。


『観測対象』


『アルベルト・フォン・グランディア』


『世界への影響確認』


『完了』


 少し間。


『評価』


『世界を救った者』


『否』


「……。」


 リリアを見る。


「否定されましたね。」


「そうだな。」


 しかし。


 続きがある。


『世界を支配した者』


『否』


『完璧な未来を作った者』


『否』


 さらに。


『では。』


『あなたは何者か』


 文字が止まる。


 答えを求めている。


 俺は考える。


 英雄ではない。


 支配者でもない。


 救世主でもない。


「……。」


「領主だ。」


 光が揺れる。


『回答確認』


『最終評価』


『アルベルト・フォン・グランディア』


『あなたは』


『自分の居場所を守り続けた者』


『認定』


 沈黙。


 リリアが笑う。


「一番。」


「男爵様らしいですね。」


「……。」


 確かに。


 大げさな称号より。


 その方がしっくりくる。


 翌日。


 街。


 いつもの日常。


 店。


 学校。


 人々。


 何も特別ではない。


 だからこそ。


 価値がある。


「男爵様。」


 子供が駆け寄る。


「将来。」


「この領地で働きたいです!」


「……。」


「なぜだ。」


「好きだからです!」


 即答。


 少し昔の自分なら。


 理解できなかった。


 でも。


 今は。


「そうか。」


 それだけ答える。


 子供は笑う。


 夜。


 屋敷。


 机の上。


 世界管理システムの記録。


 閉じる。


「終わったな。」


 イリスが頷く。


「はい。」


「あなたに対する観測は終了しました。」


「……。」


 観測。


 評価。


 ずっと見られていた。


 でも。


 最後に残ったものは。


 数字でも。


 力でもない。


 日常。


 それだった。


「アルベルト様。」


 セレナが言う。


「これからは。」


「本当に自由ですね。」


「……。」


 自由。


 昔。


 欲しかったもの。


 誰にも縛られないこと。


 でも。


 今の自由は。


 少し違う。


 自分で選んで。


 ここにいる。


「悪くない。」


 リリアが笑う。


「またそれですか。」


「何が。」


「最大級の褒め言葉です。」


 空を見る。


 星。


 静かな夜。


 物語は。


 もう大きな戦いを必要としていない。


 ただ。


 明日も。


 いつもの朝が来る。


 それでいい。

第166話を読んでいただきありがとうございます!


世界管理システムによる最後の評価が完了しました。


アルベルトは「英雄」でも「救世主」でもなく、「自分の居場所を守り続けた領主」として記録されました。


物語の始まりとは違う形で、彼自身が望んだ未来へ辿り着いています。

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