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第163話 悪役なら過去の自分へ答える

 グランディア邸。


 深夜。


 珍しく。


 眠れなかった。


「……。」


 理由は分からない。


 不安。


 心配。


 そういうものではない。


 ただ。


 昔のことを思い出していた。


 転生した日。


 この世界で目を覚ました日。


 悪役貴族。


 アルベルト・フォン・グランディア。


 その名前を知った時。


 俺は決めた。


 この世界では。


 嫌われる側になる。


 誰も信用しない。


 誰にも期待しない。


 そうすれば。


 傷つかないと思った。


「……。」


 机の引き出し。


 そこに。


 古い紙がある。


『悪役計画』


 今では。


 見るだけで少し笑える。


「……。」


 計画通りになったもの。


 何一つない。


 領民には感謝され。


 側近には信頼され。


 敵だった者とも協力している。


「男爵様。」


 声。


 リリア。


「また勝手に入ったな。」


「はい。」


「……。」


 昔なら。


 怒っていた。


 今は。


 もう慣れた。


「眠れないのですか?」


「ああ。」


「珍しいですね。」


「何が。」


「男爵様が。」


「過去を振り返るなんて。」


「……。」


 少し考える。


「俺は。」


「間違っていたのかと思ってな。」


 リリアが驚く。


「え?」


「悪役になる。」


「そう決めたこと。」


「間違いだったのか。」


 リリアは少し考える。


 そして。


「いいえ。」


「……。」


「その経験があったから。」


「今の男爵様がいると思います。」


「?」


「一人で生きようとしたから。」


「誰かと生きる意味を知った。」


「……。」


「何も知らないまま。」


「最初から優しい人だったら。」


「今のようにはならなかったかもしれません。」


 沈黙。


 確かに。


 あの頃の自分がいたから。


 今がある。


 翌日。


 街の図書館。


 新しく作られた場所。


「ここも。」


「昔はなかったですね。」


 セレナが言う。


「……。」


 本棚。


 そこには。


 歴史書。


 魔法書。


 交流記録。


 そして。


 一冊。


「これは。」


 手に取る。


『グランディア領の歩み』


 開く。


 最初のページ。


『かつて孤立していた領地は』


『一人の領主と、多くの住民の選択によって変化した』


「……。」


 自分の名前。


 書かれている。


 でも。


 主役ではない。


 住民。


 仲間。


 全員の名前がある。


「これでいい。」


 自然に言葉が出る。


 セレナが笑う。


「満足そうですね。」


「……。」


「少しな。」


 帰り道。


 子供たちが遊んでいる。


「男爵様!」


 声。


 振り返る。


「将来。」


「この領地をもっと良くします!」


 一人の子供が言う。


「……。」


 昔の自分なら。


 そんな未来。


 考えなかった。


 でも。


 今。


「頼む。」


 そう答えた。


 夜。


 庭。


 月を見る。


「……。」


 俺の役目は。


 終わりに近づいているのかもしれない。


 だが。


 それは。


 寂しいことではない。


 次の誰かが続けられる。


 それが。


 本当の意味で。


 未来を残すということだから。

第163話を読んでいただきありがとうございます!


今回はアルベルトが、転生直後の「悪役になる」という決意を振り返る回でした。


過去の選択を否定するのではなく、その経験も含めて今の自分を受け入れる流れになっています。

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