第162話 悪役なら次の領主を育てる
グランディア領。
最近。
俺の仕事は少し変わった。
以前は。
問題を解決すること。
危険を排除すること。
それが中心だった。
しかし。
今は。
「……。」
机の前。
若い領主候補たち。
「緊張していますね。」
リリアが言う。
「当然だ。」
俺を見る。
次の世代を担う者たち。
人間。
魔族。
獣人。
種族は違う。
でも。
ここでは同じ立場だ。
「今日から。」
「領地運営について学んでもらう。」
青年たちが頷く。
「はい!」
昔なら。
こんなことは考えなかった。
自分が生き残る。
それだけだった。
しかし。
今は。
自分がいなくなった後のことを考える。
「まず。」
「大切なのは。」
少し間を置く。
「人を見ることだ。」
「……。」
「数字だけを見るな。」
「税。」
「人口。」
「利益。」
「全部必要だ。」
「でも。」
「その先にいる人間を忘れるな。」
青年たちは真剣に聞いている。
「男爵様。」
一人が質問する。
「失敗した場合は?」
「……。」
答える。
「修正する。」
「え?」
「失敗しない人間はいない。」
「だから。」
「失敗した時に。」
「どう変えるかを考えろ。」
昔の自分なら。
完璧であることを求めた。
弱さを見せない。
間違えない。
それが強さだと思っていた。
でも。
違った。
「アルベルト様。」
セレナが後ろで微笑む。
「教師みたいですね。」
「違う。」
「そうですか?」
「俺は。」
「経験を話しているだけだ。」
午後。
訓練場。
若者たちが剣を振る。
「……。」
昔。
俺も。
力だけを求めていた。
負けないため。
守られるため。
しかし。
今。
必要なのは。
力だけではない。
「男爵様。」
イリスが来る。
「観測結果。」
「何だ。」
「未来予測が更新されました。」
「また悪い話か?」
「いいえ。」
珍しく。
イリスが少し笑う。
「安定しています。」
「……。」
「以前。」
「この世界には。」
「多くの滅亡可能性が存在しました。」
「ですが。」
「現在。」
「大幅に減少しています。」
俺は街を見る。
「そうか。」
「はい。」
イリスは続ける。
「原因。」
「アルベルト・フォン・グランディア。」
「……。」
また俺か。
「しかし。」
「今回は。」
「少し違います。」
「?」
「あなた一人ではありません。」
「……。」
周囲を見る。
若者たち。
住民。
仲間。
「多くの人が。」
「未来を作っています。」
「……。」
少しだけ。
安心した。
夜。
庭。
リリアと紅茶を飲む。
「男爵様。」
「はい。」
「昔。」
「悪役になると言っていましたね。」
「ああ。」
「今は。」
「どうですか?」
空を見る。
考える。
「……。」
「失敗した。」
リリアが笑う。
「そうですね。」
「でも。」
「悪い失敗ではないですね。」
「……。」
確かに。
悪役にはなれなかった。
でも。
その代わり。
別のものになった。
その時。
遠くから。
鐘の音。
街で何かの祭りが始まった。
「……。」
平和な音。
昔なら。
気にもしなかった。
今は。
少し聞いていたいと思った。
第162話を読んでいただきありがとうございます!
アルベルトが「自分が守る」段階から、「次の世代へ託す」段階へ進む回でした。
最初は孤独に生きようとしていた彼が、今では誰かに未来を渡せる存在になっています。




