第160話 悪役なら帰る場所へ戻る
グランディア領。
馬車を降りる。
「……。」
戻ってきた。
王都。
世界会議。
新時代記念式典。
色々な場所へ行った。
色々な人と会った。
しかし。
最後に帰りたいと思う場所は。
ここだった。
「おかえりなさいませ。」
屋敷の前。
執事が頭を下げる。
「……。」
昔。
この屋敷へ来た時。
誰も俺を知らなかった。
ただ。
悪役貴族として。
この世界で生きるしかないと思っていた。
「男爵様!」
街から声。
領民たち。
「戻ってきた!」
「お疲れ様です!」
「……。」
手を振る。
昔なら。
そんなこともしなかった。
でも。
今は。
小さく手を上げる。
それだけで。
皆が笑う。
「変わりましたね。」
リリアが言う。
「何が。」
「全部です。」
「……。」
屋敷へ入る。
庭。
いつもの椅子。
いつもの紅茶。
座る。
「……。」
静かだ。
本当に。
ようやく。
何も起きない時間。
しかし。
不思議と。
昔のような孤独は感じなかった。
「アルベルト様。」
リリアが隣に座る。
「幸せですか?」
「……。」
突然の質問。
昔なら。
答えられなかった。
幸せ。
そんなもの。
考えたこともなかった。
ただ。
面倒を避けて。
一人でいることを望んだ。
でも。
今は。
庭を見る。
街を見る。
仲間を見る。
「……。」
「ああ。」
自然に出た。
「幸せだ。」
リリアが少し驚く。
そして。
嬉しそうに笑う。
「やっと言いましたね。」
「……。」
その日の夜。
一人で部屋へ戻る。
机の上。
最初の日記。
『悪役として生きる』
その隣へ。
新しい紙を置く。
『グランディア領で暮らす』
「……。」
目標。
変わった。
悪役になることではない。
誰かに認められることでもない。
ただ。
自分の大切な場所で。
穏やかに暮らすこと。
それだけ。
窓の外。
月。
静かな夜。
その時。
小さな光が現れる。
「……。」
イリス。
「世界管理システムからです。」
「まだあるのか。」
「最後です。」
光に文字が浮かぶ。
『記録対象』
『アルベルト・フォン・グランディア』
『評価完了』
『称号』
『悪役になれなかった男』
「……。」
思わず見る。
「悪役になれなかった。」
「はい。」
イリスが答える。
「しかし。」
「失敗ではありません。」
「……。」
「あなたは。」
「悪役以上に。」
「多くのものを残しました。」
少し考える。
「なら。」
「悪くないな。」
窓を閉める。
明日も。
仕事がある。
問題も起きるかもしれない。
でも。
それでいい。
完璧な世界ではない。
だから。
生きている意味がある。
悪役として始まった人生。
最後に残ったものは。
世界ではなく。
帰る場所だった。
第160話を読んでいただきありがとうございます!
アルベルトが最後に手に入れたものは、名誉や力ではなく「帰る場所」でした。
「悪役になれなかった男」という称号は、最初の目的から見れば失敗ですが、この物語においては最高の結末を意味しています。




