第158話 悪役なら次の世代を見る
グランディア領。
交流学校。
完成から数年。
今日は。
卒業式の日だった。
「……。」
会場を見る。
並んでいる生徒たち。
人間。
魔族。
獣人。
誰も。
種族の違いを気にしていない。
「不思議ですね。」
リリアが隣で言う。
「何が。」
「昔なら。」
「この光景を想像できましたか?」
「……。」
できなかった。
絶対に。
昔の世界では。
人間と魔族は敵だった。
争うことが当たり前だった。
しかし。
今。
目の前では。
一緒に学び。
一緒に笑っている。
「男爵様。」
卒業生代表が前へ出る。
一人の少女。
人間。
隣には。
魔族の少年。
二人で言葉を述べる。
「私たちは。」
「違う種族として生まれました。」
「ですが。」
「同じ場所で学びました。」
「……。」
「最初は。」
「怖かったです。」
「でも。」
「話すことで。」
「分かることがありました。」
会場が静かになる。
「これからも。」
「違いを恐れず。」
「共に歩んでいきます。」
拍手。
大きな拍手。
「……。」
俺は見る。
この場所。
この未来。
自分が作ったとは思えない。
でも。
確かに。
始まりには関わった。
「アルベルト様。」
セレナが微笑む。
「感動していますか?」
「していない。」
「……。」
「ですが。」
「悪くない。」
「はい。」
式典の後。
卒業生たちが来る。
「男爵様。」
「ありがとうございました。」
「……。」
「俺は。」
「何もしていない。」
少女が首を振る。
「そんなことありません。」
「この場所を作ってくれました。」
「……。」
「だから。」
「私たちは出会えました。」
言葉が出ない。
昔。
誰かに感謝されることなんて。
考えたこともなかった。
夜。
屋敷。
庭。
「今日は。」
リリアが言う。
「嬉しかったですか?」
「……。」
空を見る。
「少し。」
「少しだけですか?」
「十分だ。」
リリアは笑う。
「昔のアルベルト様なら。」
「絶対に言わなかったですね。」
「……。」
その時。
イリスがやってくる。
「報告があります。」
「何だ。」
「世界管理システム。」
「新たな観測結果。」
「……。」
またか。
「今度は何だ。」
イリスは答える。
「アルベルト・フォン・グランディア。」
「あなたの影響は。」
「現在も継続しています。」
「……。」
「世界変化率。」
「安定。」
「未来予測。」
「良好。」
「つまり。」
少し考える。
「もう問題はないのか。」
「はい。」
イリスは頷く。
「あなたがいなくても。」
「世界は進みます。」
「……。」
その言葉。
少しだけ。
嬉しかった。
自分がいなくても。
続いていく。
それが。
本当の意味で。
残したものなのかもしれない。
「男爵様。」
リリアが聞く。
「寂しくないですか?」
「……。」
少し考える。
「違う。」
「?」
「安心した。」
世界は。
もう。
一人の英雄を必要としていない。
それでいい。
俺は。
ただの領主に戻れる。
そう思った。
しかし。
翌朝。
一通の手紙が届く。
『新時代記念式典について』
「……。」
リリアが笑う。
「また呼ばれましたね。」
「……。」
静かな生活。
まだ少し遠いらしい。
第158話を読んでいただきありがとうございます!
次の世代が育ち、アルベルトが作ったものが「当たり前」として続いていることを描く回でした。
英雄が必要ない世界を作ることこそ、アルベルトにとって一番望んでいた未来なのかもしれません。
次回、新時代記念式典へ進みます。




