第144話 悪役なら平和を受け入れる
グランディア領。
あの日から。
世界は少しずつ変わっていた。
大きな戦争は終わった。
人間と魔族の関係も。
以前とは違うものになった。
「……。」
俺は庭の椅子に座る。
紅茶。
静かな風。
鳥の声。
完璧だ。
「男爵様。」
リリアが来る。
「今日は珍しく誰も来ませんね。」
「……。」
確かに。
誰も来ない。
問題も起きない。
「平和だ。」
「はい。」
リリアが笑う。
「嬉しくないんですか?」
「……。」
少し考える。
昔なら。
この時間を求めていた。
何も起きない。
誰にも関わらない。
ただ静かに暮らす。
それが目的だった。
しかし。
「悪くない。」
「……。」
リリアが目を丸くする。
「今。」
「悪くないって言いました?」
「言った。」
「珍しいですね。」
「そうか?」
「はい。」
そこへ。
「アルベルト。」
レオンハルトが来る。
「……。」
「なぜいる。」
「久しぶりだからな。」
「数日前に会った。」
「細かい。」
「……。」
さらに。
「失礼します。」
セレナ。
「報告書です。」
「……。」
「まだ仕事はありますね。」
「当然です。」
平和とは。
完全な何もない状態ではないらしい。
しかし。
以前のような。
世界の危機ではない。
誰かが困っている。
だから。
手を貸す。
それだけだ。
「アルベルト様。」
セレナが言う。
「昔。」
「悪役になろうとしていましたよね。」
「……。」
余計なことを覚えている。
「そうだ。」
「今見ると。」
「どう思いますか?」
「……。」
考える。
嫌われる。
恐れられる。
孤独になる。
それが悪役だと思っていた。
でも。
「間違っていた。」
「え?」
「悪役だから。」
「一人でいる必要はない。」
リリアが笑う。
「変わりましたね。」
「……。」
否定できない。
その夜。
領地の街へ出る。
昔なら。
考えられなかった。
領民たちが声をかける。
「男爵様!」
「ありがとうございます!」
「魔族の店も増えて便利になりました!」
「……。」
俺は返事に困る。
だが。
「そうか。」
それだけ答える。
笑顔が返ってくる。
屋敷へ戻る。
空を見る。
「……。」
ようやく。
静かな生活。
手に入れた気がする。
その時。
机の上。
一枚の手紙。
『世界連合会議より』
『アルベルト・フォン・グランディアへ』
「……。」
開く。
『あなたの功績を称え』
『正式に世界平和記念式典への参加を――』
途中で閉じる。
「断る。」
即答。
リリアが笑う。
「まだそこは変わらないんですね。」
「ああ。」
「でも。」
「少しだけ。」
「?」
「行ってもいい気はする。」
リリアは嬉しそうに笑った。
悪役として始まった人生。
気付けば。
世界中に居場所ができていた
第144話を読んでいただきありがとうございます!
戦いの後の日常回です。
アルベルトが「静かな生活」を手に入れながらも、昔とは違う形で人との繋がりを受け入れていることが描かれました。
次回、世界平和記念式典編へ進みます。




