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第13話 王女、男爵家へ

 午後。


 屋敷の前が妙に騒がしかった。


「坊ちゃま。」


 レオンが窓の外を見ながら口を開く。


「予定より早く到着されたようです。」


「……来たのか。」


 ため息しか出ない。


 まさか本当に来るとは思わなかった。


 窓から外を見る。


 王家の紋章が描かれた豪華な馬車。


 護衛の騎士が十数名。


 さらに侍女まで同行している。


 完全に王族の訪問だった。


「出迎えませんか?」


「嫌だ。」


「ですが。」


「帰るかもしれない。」


 淡い期待を抱く。


 しかし、その期待は数秒で砕け散った。


「失礼いたします。」


 ノックの後、執事が入ってくる。


「王女殿下がお待ちです。」


「……通せ。」


 逃げても無駄らしい。


 しばらくして。


「失礼します。」


 昨日と同じ美しい少女が部屋へ入ってきた。


 王女は柔らかく微笑み、一礼する。


「突然お邪魔してしまい申し訳ありません。」


「そう思うなら来るな。」


 悪役らしく言い放つ。


 だが王女は少しも気分を害した様子はない。


「はい。」


 なぜか嬉しそうだった。


「それでも、お会いしたかったので。」


「……。」


 話が通じない。


 エレナがお茶を用意し、静かに部屋を出ていく。


 二人きりになった。


「それで。」


 俺は紅茶を口に運ぶ。


「何の用だ。」


「特別な用事ではありません。」


「じゃあ帰れ。」


「お話がしたいだけです。」


 王女はクスッと笑った。


「昨日はあまりお話しできませんでしたから。」


「十分だった。」


「私は足りません。」


「……。」


 この人。


 結構押しが強い。


 王女というより普通の女の子みたいだ。


「男爵様は。」


 王女が俺を見る。


「どうして、そこまで嫌われようとなさるのですか?」


「嫌われたいからだ。」


「理由を伺っても?」


「悪役だからだ。」


「……悪役?」


「ああ。」


 王女は首を傾げる。


「私はそうは思いません。」


「思え。」


「思えません。」


 即答だった。


「領民のために動き。」


「違う。」


「騎士団を鍛え。」


「違う。」


「困っている方々を助け。」


「違う。」


「誰よりも優しいではありませんか。」


「全部違う。」


 俺は本気で言っている。


 なのに王女は小さく笑った。


「ふふっ。」


「笑うな。」


「すみません。」


 そう言いながらも笑みは消えない。


「男爵様は、本当に不器用ですね。」


「……。」


 その言葉に。


 ほんの少しだけ胸がざわついた。


 前世でも言われたことがあった。


 だから思わず黙ってしまう。


 王女はそんな俺を見つめながら優しく微笑んだ。


「私は。」


 静かな声で続ける。


「皆がどんな噂をしていても、自分の目で見たことを信じたいと思っています。」


「好きにしろ。」


「はい。」


 その返事だけで十分だった。


 王女は嬉しそうに笑っていた。


 そしてその頃。


 屋敷の外では。


「見たか?」


「王女殿下がお一人で男爵様の屋敷へ……。」


「二人きりでお茶を……。」


「まさか。」


「いや、間違いない。」


 新たな噂が、王都中へ広がろうとしていた。

第13話を読んでいただきありがとうございます!


ついに王女が男爵家を訪問しました。


少しずつですが、アルベルトと王女の距離も動き始めています。


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