第100話 悪役なら王都を救ってしまう
王都東地区。
空を覆う黒い魔法陣。
地面には無数の魔力線。
街灯。
建物。
道路。
王都そのものが巨大な魔法装置になっていた。
「……。」
最悪だ。
規模が大きすぎる。
「男爵様!」
リリアが駆け寄る。
「どうすれば止められますか?」
俺は地面を見る。
「中心を壊す。」
「簡単に言いますね……。」
セレナが周囲を確認する。
「ですが。」
「敵も当然守っています。」
その瞬間。
黒い魔法兵が現れた。
数十。
いや。
数百。
「来ましたね。」
クラウス隊長が剣を抜く。
「騎士団は周囲を守る!」
「魔法師団は魔法陣の解析を!」
「アルベルト。」
隊長が俺を見る。
「中央を頼む。」
「……。」
任される。
嫌な役だ。
目立つ。
しかし。
「分かった。」
俺は歩く。
「待ってください。」
セレナが隣に来る。
「私も行きます。」
「危険だ。」
「知っています。」
「ですが。」
セレナは前を見る。
「もう。」
「一人で行かせる気はありません。」
「……。」
リリアも続く。
「私もです。」
「男爵様だけに任せません。」
「……。」
以前なら。
断っていた。
でも。
「分かった。」
二人が笑う。
「はい!」
魔法兵が襲い掛かる。
黒い刃。
闇の魔法。
「リリア!」
「はい!」
光魔法が広がる。
闇を打ち消す。
「セレナ!」
「分かっています!」
氷の壁。
敵の動きを止める。
「今です!」
俺は進む。
中央へ。
そこには。
仮面の男。
「来たか。」
「アルベルト。」
「……。」
「君は理解できない。」
男は言う。
「なぜ。」
「そこまで他人のために動ける。」
「力ある者は。」
「自分のために使うものだ。」
「……。」
俺は魔法陣を見る。
「違う。」
「?」
「俺は。」
「自分のためだ。」
男が笑う。
「やはり。」
「結局は――」
「静かな生活を守るためだ。」
「……。」
「俺の生活を。」
「お前たちが邪魔している。」
沈黙。
そして。
仮面の男が笑った。
「そんな理由で。」
「この国を救うのか?」
「……。」
「そうだ。」
即答。
「俺にとっては十分だ。」
魔力がぶつかる。
黒い光。
白い光。
王都の空が揺れる。
「なら。」
「君の覚悟を見せてもらう。」
仮面の男の魔力が膨れ上がる。
「この魔法陣は。」
「王都全体の魔力を吸収する。」
「止めるには。」
「君ほどの力が必要だ。」
「……。」
つまり。
「俺を使うつもりだったのか。」
「そうだ。」
男は笑う。
「君の魔力こそ。」
「完成に必要な最後の鍵。」
「……。」
面倒なことを考える。
なら。
逆に。
「その魔法陣。」
「借りる。」
「何?」
俺は魔法陣へ手を伸ばす。
「流れは分かった。」
「なら。」
「逆に流せばいい。」
「馬鹿な!」
男が叫ぶ。
「王都全域の魔力制御など!」
「一人でできるはずがない!」
「……。」
俺は少し考える。
「一人ではない。」
後ろを見る。
リリア。
セレナ。
騎士団。
魔法師団。
「……。」
全員が頷いた。
「行きましょう。」
「任せてください。」
魔法陣へ。
皆の魔力が流れる。
黒い光が弱まる。
そして。
王都を覆っていた魔法陣は。
白い光へ変わった。
「……ありえない。」
仮面の男が膝をつく。
「破壊ではなく。」
「制御しただと……。」
「……。」
俺は空を見る。
「終わったな。」
その瞬間。
王都中に歓声が響いた。
「助かった!」
「魔法陣が消えた!」
「英雄だ!」
「……。」
違う。
ただ。
静かな生活を取り戻したいだけだ。
しかし。
その日。
王都全域に一つの名が広まった。
『悪役男爵』
『王都を救った英雄』
本人の望みとは。
正反対の評価だった。
第100話を読んでいただきありがとうございます!
王都決戦編、ひとまず大きな山場を迎えました。
アルベルトは最後まで「自分の生活を守るため」と考えていますが、その行動は王都全体を救う結果になりました。
次回、事件後の王都とアルベルトへの新たな評価が描かれます。




