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星喰いの王と、忘れられた魔女  作者: あーちゃん


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灰騎士団

騎士とは、誰かを守るために剣を取る者のはずでした。


 けれど、守るべきものを見失った時。

 命令だけが残り、心を削られ、名前さえ奪われた時。

 騎士は、何になってしまうのでしょうか。


 王アーヴェルの名を取り戻したユノたちは、玉座の下に隠された記録室へ向かいます。


 そこに眠っていたのは、黒翼騎士団の秘密。

 そして、灰騎士たちがどのように生み出されたのかという残酷な記録でした。


 このページでは、ユノたちは“人を怪物に変えた罪”と向き合います。

玉座の下に現れた階段は、細く、暗かった。


 灰に埋もれた王冠が、背後の床に転がっている。


 星白王国最後の王、アーヴェル。


 その名を呼び戻したばかりなのに、ユノの胸には救いよりも重さが残っていた。


 王は名を取り戻した。


 顔も戻った。


 けれど、それは許しではない。


 罪が形を取り戻しただけだ。


 リゼは無言で階段を見下ろしていた。


 王の名を呼んだ時、彼女の声は震えていなかった。


 けれどユノには分かっていた。


 銀色の契約を通して、彼女の胸の奥にある痛みが微かに伝わってきていたからだ。


 怒り。


 悲しみ。


 そして、どうにもならない虚しさ。


 王が恐怖に負けたことを知っても、リゼの仲間が焼かれた事実は変わらない。


 王が子を失っていたとしても、地下城の民が焼かれたことは消えない。


 事情を知ることは、時に残酷だ。


 憎む相手をただの怪物ではなく、人間として見せてしまうから。


「リゼ」


 ユノが呼ぶと、彼女は小さく顔を上げた。


「何?」


「進めるか?」


「進むわ」


 短い答えだった。


 だが、その声には力があった。


 ミアは記憶灯を抱え直した。


 銀色の火は、玉座の間に入ってから少し揺れが大きくなっている。


「この下、嫌な感じする」


「私も」


 カイが木剣を握りしめた。


「でも行くんだろ」


「ああ」


 ユノは頷いた。


「黒翼騎士団の記録があるなら、黒い羽根のやつの正体に近づける」


 リゼが言った。


「それだけじゃないわ。灰騎士がどう作られたのかも、分かるかもしれない」


 灰騎士。


 エリオを思い出す。


 妹の名を失い、魔女を殺せという命令だけを刻まれた騎士。


 怪物にされても、最後に名前を取り戻した男。


 リナ。


 ユノはその名を心の中で呼んだ。


 忘れないために。


 四人は階段を降り始めた。


 足元の石は湿っていた。


 壁には黒い羽根の紋章が刻まれている。


 だが、その上から無数の爪痕のような傷が走っていた。


 まるで、中に閉じ込められた何かが外へ出ようともがいた跡のようだった。


 ミアが声を潜める。


「これ、誰がつけたの?」


 リゼは壁に触れた。


「人の爪ではないわ」


「じゃあ」


「灰騎士」


 カイが息を呑む。


「ここにいたのか」


「ええ。おそらく、この下は記録室であると同時に、実験場だった」


 実験場。


 その言葉だけで、ユノの背中に冷たいものが走った。


 階段の終わりに、鉄の扉があった。


 扉には文字が刻まれている。


 リゼが読んだ。


「黒翼騎士団機密記録室。許可なき者の入室を禁ず」


「開けられる?」


 ユノが聞くと、リゼは王冠型の記憶の鍵を取り出した。


 しかし扉のくぼみは、黒い羽根の形だった。


 灰騎士エリオが残した通行証。


 ユノはそれを差し出した。


「こっちか」


 リゼは受け取り、鍵穴へ差し込む。


 ガチャン。


 扉が開いた。


 中から、冷たい空気が流れ出す。


 それは血の匂いを含んでいた。


 ミアが顔をしかめる。


「……嫌な匂い」


 ユノは星灯りの剣を呼び出した。


 銀色の刃が暗闇を照らす。


 中は広い円形の部屋だった。


 壁一面に棚が並び、古い記録板や紙束、黒い金属筒が収められている。


 中央には大きな石台があった。


 台の上には、鎖がついている。


 人を縛るためのものだった。


 カイが後ずさる。


「ここで……何をしたんだよ」


 誰も答えられなかった。


 だが部屋の奥には、その答えが並んでいた。


 ガラスの筒。


 中には黒い液体。


 折れた剣。


 灰色の骨。


 そして、黒い羽根の形をした呪印具。


 リゼの顔が険しくなる。


「黒翼の呪印……」


「エリオの胸にあったやつか」


「ええ」


 ユノは石台を見た。


 ここで騎士たちに呪印を刻んだのか。


 心を壊し、記憶を削り、命令だけを残すために。


 ミアが棚の記録板を一枚手に取った。


「読めない……リゼ、これ」


 リゼが受け取り、目を通す。


 読み進めるうちに、彼女の表情が硬くなっていった。


「何て書いてある?」


 ユノが聞く。


 リゼは少し沈黙したあと、低い声で読み上げた。


「灰騎士化実験、第一記録。対象、黒翼騎士団下級兵三名。星喰いへの接触後、記憶の欠落あり。魔女への憎悪を固定することで精神崩壊を抑制可能」


 ミアが口元を押さえた。


「精神崩壊を……抑制?」


 リゼは続けた。


「第二記録。対象五名。家族の記憶を削除後、命令反応が向上。個人名を残すと逆反応あり。名を奪い、役割のみを残すことが有効」


 カイが怒鳴った。


「ふざけるなよ!」


 声が記録室に響く。


「家族の記憶を消して、名前も奪って、それで有効って何だよ!」


 ユノも拳を握った。


 エリオがどうしてあんな姿になったのか。


 記録は淡々と語っている。


 その淡々さが、何よりも恐ろしかった。


 リゼは別の記録板を取った。


「第三記録。魔女の魔法に対抗するため、呪印に魔力分解式を追加。被験者の肉体変異が進行。灰化症状あり。痛覚反応は残るが、命令遂行には支障なし」


「痛みは残るのに……」


 ミアの声が震えた。


「それでも使ったの?」


 リゼは記録板を握りしめた。


 指が白くなる。


「彼らにとって、騎士は人間ではなくなっていたのね」


 ユノは石台へ近づいた。


 鎖には、古い血の跡が残っている。


 その上に手をかざした瞬間、星灯りの剣が震えた。


 記憶がある。


 この場所に、まだ。


「ユノ」


 リゼが警戒する。


「触れないで」


「分かってる」


 だが、石台の記憶が勝手に流れ込んできた。


 ユノは目を閉じた。


 記録室が、千年前の姿になる。


 白い衣を着た神官たち。


 黒い鎧の騎士たち。


 石台に縛られた若い騎士。


 その胸に、黒い羽根の呪印が刻まれていく。


 騎士は叫んでいた。


「やめろ! 妹を返せ! 俺は魔女なんか憎んでいない!」


 エリオだった。


 ユノは息を呑む。


 これはエリオの記憶。


 彼が灰騎士にされる瞬間。


 黒い羽根の者が石台のそばに立っている。


 顔は見えない。


 だが、声は聞こえる。


『名を残すから苦しむ』


 黒い羽根の者は囁く。


『ならば、名を削ればいい』


 エリオが叫ぶ。


「リナ! リナ! リナ!」


 その名を忘れまいと必死に叫んでいる。


 だが神官が黒い刃を胸の呪印へ押し込む。


 エリオの声が裂けた。


 次第に、彼の叫びは変わっていく。


「リ……ナ……」


「リ……」


「……」


 そして最後に残ったのは、別の言葉だった。


「魔女を……殺す……」


 ユノは現実に戻った。


 息が苦しい。


 リゼが彼の肩を掴んでいる。


「ユノ!」


「見えた……」


「何を」


「エリオが……灰騎士にされたところ」


 記録室に沈黙が落ちた。


 カイは悔しそうに木剣を握りしめている。


 ミアは涙目で石台を睨んでいた。


「こんなこと……人にすることじゃない」


 リゼは静かに頷いた。


「ええ」


 その声は氷のようだった。


「これは戦争でも、裁きでもない。ただの拷問よ」


 その時、部屋の奥で金属音がした。


 ギィ、と古い扉が開くような音。


 四人は身構えた。


 星灯りの剣が光る。


 棚の奥。


 暗い通路から、何かが歩いてきた。


 灰色の鎧。


 崩れかけた兜。


 長い剣。


 胸には黒い羽根の呪印。


 灰騎士だった。


 エリオよりは小さい。


 だが、一体ではない。


 二体。


 三体。


 五体。


 次々と現れる。


 ミアが息を呑む。


「まだ……いるの……?」


 リゼが低く言った。


「記録室を守る番兵として残されたのね」


 カイが震える。


「あいつらも、元は人間なのか?」


「そうよ」


 ユノは剣を構えた。


 灰騎士たちの口元から灰が漏れている。


 彼らは一斉に呟いた。


「魔女を……殺す……」


 リゼの顔が強張る。


 ユノは前へ出た。


「俺が止める」


「ユノ、全部救おうとしないで」


「分かってる」


 分かっている。


 でも、ただ斬り捨てることはできない。


 彼らにも名前があったはずだ。


 家族がいたはずだ。


 奪われたものがあるはずだ。


 灰騎士の一体が突進してきた。


 ユノは星灯りの剣で受ける。


 重い。


 腕に衝撃が走る。


 ミアが叫ぶ。


「左から来る!」


 カイが木剣を握り、反射的に飛び出そうとする。


 リゼが叫んだ。


「カイ、下がって!」


 銀色の氷が床を走り、灰騎士の足を止める。


 だが呪印が赤黒く光り、氷はすぐに崩れる。


「魔法が効きにくい……!」


 リゼが歯を食いしばる。


 ユノは一体の胸元に剣を走らせた。


 呪印を斬る。


 瞬間、記憶が流れ込む。


 名前。


 ――グレン。


 妻の名前。


 ――ミーシャ。


 守りたかった子ども。


 ――トル。


 ユノは叫んだ。


「グレン! ミーシャ! トル!」


 灰騎士の動きが止まる。


 兜の奥で、灰色の光が揺れた。


「グ……レン……」


 その体が崩れ始める。


 ユノは次へ向かった。


 二体目。


 剣を振る。


 呪印を斬る。


 記憶が流れ込む。


 ――ラウル。


 ――母、エダ。


 ――故郷、南門区。


「ラウル! エダ! 南門区!」


 二体目が崩れる。


 三体目が背後から迫る。


 ミアがランタンを掲げる。


「ユノ、右!」


 ユノは振り返り、剣で受ける。


 だが衝撃で膝をつく。


 記憶が多すぎる。


 頭が割れそうだ。


 リゼの銀の輪が強く光る。


「ユノ! 戻って!」


「俺は……ユノ!」


「そう!」


 カイが必死に叫ぶ。


「ユノ! グレン! ラウル!」


 ミアも続ける。


「ミーシャ! トル! エダ!」


 名前を仲間が受け取ってくれる。


 だからユノは進めた。


 リゼが魔法で灰騎士の剣を逸らす。


 ユノは三体目の呪印を斬った。


 ――セド。


 ――弟、ニコ。


「セド! ニコ!」


 四体目。


 ――ハンス。


 ――婚約者、リリア。


「ハンス! リリア!」


 五体目。


 記憶が深すぎた。


 剣が呪印に触れた瞬間、ユノの意識が引きずり込まれる。


 広い訓練場。


 若い女性騎士。


 名前はアリア。


 彼女は黒翼騎士団に入った最初の女性騎士だった。


 魔女を守りたかった。


 星喰いと戦いたかった。


 だが、王の命令で魔女狩りへ参加させられた。


 彼女は拒否した。


 その結果、灰騎士化された。


 彼女の最後の記憶は、自分の名を叫ぶ声。


 アリア。


 アリア。


 アリア。


 ユノは現実で叫んだ。


「アリア!」


 五体目の灰騎士が止まった。


 兜が割れ、灰の中から女性の顔が一瞬だけ現れた。


「……私……は……」


 リゼが息を呑む。


 アリアはリゼを見た。


「魔女……逃げて……」


 その言葉を最後に、彼女は灰になった。


 記録室に静寂が戻る。


 ユノは剣を床に突き立て、膝をついた。


 息ができない。


 頭の中で、いくつもの名前が渦巻いている。


 グレン。

 ミーシャ。

 トル。

 ラウル。

 エダ。

 セド。

 ニコ。

 ハンス。

 リリア。

 アリア。


 多い。


 重い。


 でも、仲間の声が聞こえる。


 ミアが名前を繰り返している。


 カイも、必死に覚えようとしている。


 リゼがユノの肩に手を置いた。


「ユノ」


「……いる」


「あなたはユノ」


「うん」


「全部を一人で抱えない」


「……うん」


 ミアが涙を拭きながら言った。


「私も覚える。グレン、ミーシャ、トル、ラウル、エダ……」


 カイも続ける。


「セド、ニコ、ハンス、リリア、アリア」


 ユノはゆっくり息を吐いた。


 少しだけ軽くなる。


 名前は、分け合える。


 それをまた知った。


 リゼは灰の残った床に膝をつき、静かに目を閉じた。


「彼らは敵だったかもしれない。でも、こんな形で残されるべきではなかった」


 彼女は低く言った。


「黒翼騎士団……許さない」


 その声には、これまでとは違う怒りがあった。


 魔女としての怒りだけではない。


 人を人でなくした者たちへの怒り。


 その時、記録室の奥の棚がひとりでに開いた。


 そこに黒い金属筒がひとつ置かれている。


 ユノは立ち上がり、慎重に近づいた。


 筒には文字が刻まれている。


 リゼが読む。


「黒翼騎士団長、最終記録」


「騎士団長……」


 ミアが呟く。


「黒い羽根の人?」


 リゼは筒を開けた。


 中から、黒い記録板が出てくる。


 そこには短い文章が刻まれていた。


 ――名を捨てる。

 ――王は弱すぎた。

 ――魔女は優しすぎた。

 ――民は愚かすぎた。

 ――星喰いの王のみが、すべてを終わらせられる。

 ――忘却こそ救済。

 ――我が名は不要。

 ――されど、かつての名を記すならば。


 リゼの声が止まった。


 ユノは彼女を見る。


「リゼ?」


 リゼの手が震えていた。


「どうした」


 彼女は記録板の最後の行を見つめている。


 そこに刻まれた名。


 ユノには読めない古い文字。


 だが、リゼには読めた。


 彼女は掠れた声で言った。


「……セレノ」


「誰だ?」


 リゼは顔を上げた。


 その瞳には、信じたくないという色が浮かんでいた。


「姉様の婚約者だった人」


 記録室が静まり返る。


 リゼは続けた。


「星白王国の騎士団長。魔女を守ると誓った騎士。姉様が……信じていた人」


 ユノは息を呑んだ。


 黒い羽根の者。


 名を捨てた者。


 星喰いの王の名を完成させようとしている者。


 その正体は、リゼの姉が信じていた騎士だったのか。


 リゼの手から記録板が落ちた。


 乾いた音が響く。


「嘘……」


 彼女の声は小さかった。


「セレノが……どうして……」


 ユノは手を伸ばす。


「リゼ」


 銀の輪が光る。


 リゼは震えていた。


 これまでの怒りとは違う。


 裏切り。


 また、裏切りだ。


 千年前の傷が、今ここでさらに開かれた。


 ミアも言葉を失っている。


 カイは何が起きたのか完全には分からないようだったが、リゼの痛みだけは感じ取ったのか、黙っていた。


 その時、記録室の奥から声が聞こえた。


『思い出したか、リゼ』


 黒い羽根が舞った。


 棚の影から、黒い外套の者が現れる。


 顔は相変わらず見えない。


 だが、リゼはその姿を見て、立ち尽くした。


「セレノ……」


 黒い外套の者は、静かに頭を下げた。


『久しぶりだね。最後の魔女』


 リゼの赤い瞳が揺れる。


「あなたは……姉様を守るって……」


『守ろうとした』


「なら、なぜ!」


 リゼの叫びが記録室を震わせた。


「なぜ魔女狩りを率いたの! なぜ星喰いの王を目覚めさせようとしているの!」


 セレノは沈黙した。


 それから穏やかに言った。


『守れなかったからだ』


「答えになっていない!」


『守れない世界なら、終わらせるしかない』


 ユノは星灯りの剣を構えた。


「お前の救いなんて、誰も望んでない」


 セレノはユノを見る。


『鍵よ。君もいずれ分かる。守りたいものが多いほど、失った時の痛みは大きい。ならば、最初から忘れた方がいい』


「違う」


『まだ違うと言えるのか。これだけの記憶を背負っても』


「言える」


 ユノは歯を食いしばった。


「痛くても、忘れたくない」


 セレノは静かに笑った。


『その答えがいつまで続くか、見せてもらおう』


 彼の足元から黒い羽根が広がる。


 記録室全体が揺れた。


 リゼが魔法を放とうとする。


 だがセレノは彼女へ向かって言った。


『リゼ。君の姉は、最後に私の名を呼んだ』


 リゼの動きが止まる。


『助けて、ではなかった。憎んでいる、でもなかった』


「やめて……」


『忘れないで、と言った』


 リゼの顔が歪む。


 セレノの声は優しい。


 優しいからこそ、残酷だった。


『だから私は忘れないために、すべてを終わらせる』


「それは……姉様の願いじゃない……」


『そうかもしれない』


 セレノは灰色の扉の奥へ下がる。


『だが、もう戻れない』


 黒い羽根が舞い上がった。


 次の瞬間、彼の姿は消えた。


 代わりに、床に一枚の地図が残されていた。


 ミアが拾い上げる。


「これは……?」


 リゼはまだ震えていたが、地図を見て表情を変えた。


「海底都市アステラへの航路図」


「また誘導か」


 ユノは拳を握る。


 セレノは彼らを進ませている。


 王の名を完成させるために。


 それでも、進むしかない。


 リゼは記録板を拾い直した。


 彼女の指はまだ震えていた。


 ユノはそっと名前を呼ぶ。


「リゼ」


 銀の輪が光る。


 リゼは目を閉じた。


「……いるわ」


「戻ってこい」


「戻っている」


「本当に?」


 リゼは少しだけ沈黙した。


 そして、小さく言った。


「戻りたい」


 その声があまりにも弱くて、ユノは胸が痛くなった。


 彼はリゼの前に立つ。


「なら、呼ぶ」


 リゼが顔を上げる。


「リゼ」


 ユノはもう一度呼んだ。


「リゼ。最後の魔女。俺の仲間」


 ミアも言った。


「リゼ。私たちの仲間」


 カイも少し照れながら続けた。


「リゼ。怖いけど強い人」


 リゼの目が揺れた。


 やがて、彼女は小さく息を吐いた。


「……ありがとう」


 記録室には、灰騎士たちの名が残っている。


 黒翼騎士団の罪も。


 そして、セレノという名も。


 この名は、リゼにとって新たな傷になった。


 だが、同時に真実への扉でもあった。


 ユノは星灯りの剣を手首へ戻し、床に残る灰を見た。


「グレン。ラウル。セド。ハンス。アリア」


 名前を呼ぶ。


「エリオ。リナ」


 そして最後に。


「セレノ」


 その名を呼んだ瞬間、リゼが少しだけ肩を震わせた。


 ユノは続けた。


「忘れない。罪も、名前も」


 リゼは頷いた。


「ええ。忘れない」


 記録室の奥には、もうひとつの扉が開いていた。


 灰の王国から外へ続く地下水路。


 おそらく、海へ向かう道。


 次の目的地は見え始めている。


 海底都市アステラ。


 王の名の次の手がかり。


 しかしその前に、彼らは灰の王国を出なければならない。


 そしてリゼは、新たに知ってしまった裏切りを抱えて歩かなければならない。


 ユノは思った。


 旅は進むほど、背負う名前が増えていく。


 それは重い。


 でも、その重さこそが、自分たちがまだ世界に繋がっている証なのかもしれない。


 灰騎士団。


 名前を奪われ、役割だけを残された騎士たち。


 彼らの名を呼んだことで、ユノたちはまた少しだけ、忘却に抗った。


 だがその先で待っていた真実は、さらに残酷だった。


 黒い羽根の者――セレノ。


 彼の名が戻った今、物語はもう後戻りできない場所へ進み始めていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 このページでは、黒翼騎士団の記録室と、灰騎士団の真実が明かされました。


 灰騎士たちは、ただの怪物ではありません。

 記憶を削られ、名前を奪われ、魔女への憎悪だけを刻まれた元騎士たちでした。


 ユノは星灯りの剣で彼らの呪印を斬り、いくつもの名前を呼び戻しました。


 グレン。

 ラウル。

 セド。

 ハンス。

 アリア。

 そして、エリオとリナ。


 名前を呼ぶことは、救いであり、同時に重い責任でもあります。


 そして最後に、黒い羽根の者の名が明かされました。


 セレノ。


 彼はリゼの姉が信じた騎士であり、かつて魔女を守るはずだった者。

 けれど今は、星喰いの王の名を完成させ、世界を忘却で終わらせようとしています。


 次のページは『名を奪う剣』です。

 ユノは星灯りの剣とは正反対の存在――名前を奪う黒い剣の存在を知ることになります。

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