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星喰いの王と、忘れられた魔女  作者: あーちゃん


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置いてきた故郷

故郷を離れて初めて、そこがどれほど自分を支えていたのかに気づくことがあります。


 煤けた屋根。

 うるさい採掘塔の音。

 何度も怒られた路地。

 帰りを待ってくれる人。


 灰の王国の王城へ向かうユノは、旅の途中で置いてきたルグナを思い出します。


 守るために離れたはずなのに、離れたことで不安になる。

 忘れないと誓ったはずなのに、遠くなるほど記憶が揺らいでいく。


 このページでは、ユノが“故郷を置いてきた痛み”と向き合います。

灰の王国の道は、まるで燃え残った骨の上を歩いているようだった。


 朝の光はある。


 けれど暖かくはない。


 空は薄い灰色で、雲の隙間から差し込む光さえ、煤をかぶったように鈍く濁っていた。


 ユノたちは、壊れた時計塔を背にして王城へ向かっていた。


 遠くに見える城は、近づいているはずなのに、なかなか大きくならない。黒く焼けた尖塔が何本も空へ突き刺さり、その姿は城というより、巨大な獣の亡骸のようだった。


 道の両側には、焼け落ちた家々が続いている。


 窓のない家。

 扉だけが残った家。

 壁に人の影のような焦げ跡が残る家。


 そこを通るたび、ユノは胸の奥がざわついた。


 ここにも暮らしがあったはずだ。


 朝にパンを焼く匂いがして、子どもが走り、誰かが誰かの名前を呼んでいたはずだ。


 それが今は灰だけになっている。


 灰の王国。


 名前の通りの場所だった。


「ユノ」


 ミアの声がした。


 ユノは振り返る。


「また速くなってる」


「あ……悪い」


 足を止めると、ミアが少し息を切らしながら追いついてきた。


 リゼはその後ろを静かに歩いている。


 彼女の顔色は悪くない。


 だが、王城へ近づくにつれて口数が減っていた。


 リゼにとってこの国は、ただの廃墟ではない。


 裏切りと炎と恐怖が眠る場所だ。


 ユノはそれを分かっているつもりだった。


 けれど、完全には分かれない。


 誰かの痛みは、契約で少し流れ込んできても、本当の意味で同じにはならない。


「大丈夫?」


 ミアが聞いた。


「俺?」


「うん。なんかずっと考え込んでる」


「……ルグナのこと考えてた」


 ミアの表情が少し変わった。


「そっか」


 それだけで、彼女には伝わったらしい。


 ルグナ。


 炭鉱町。


 煤けた屋根。


 採掘塔の音。


 ガルドの大きな背中。


 ミアの父親の工房。


 セナの泣き声。


 北区の空白。


 そして父の手帳。


 たった数日前まで、ユノの世界はルグナだけだった。


 狭くて、退屈で、煤だらけで、いつか出ていきたいと思っていた町。


 なのに今は、その町が恋しかった。


 恋しいというより、怖かった。


 自分が離れている間に、ルグナが消えてしまうのではないか。


 ガルドが自分の名前を忘れてしまうのではないか。


 セナがまたアルトの名前を失ってしまうのではないか。


 そう考えるだけで、胸の奥が締めつけられた。


「ガルドさんなら大丈夫だよ」


 ミアが言った。


「強いし、しぶといし、怒ると怖いし」


「褒めてるのか?」


「褒めてる。たぶん」


 ユノは少しだけ笑った。


 でもすぐに、その笑いは消える。


「俺たち、勝手に出てきたんだよな」


「勝手じゃないよ。見送ってくれた」


「でも、置いてきた」


 その言葉が、自分でも思った以上に重かった。


 置いてきた。


 ルグナを。


 ガルドを。


 父の墓を。


 消えかけた町を。


 守るために出てきたはずなのに、置き去りにしたような痛みがあった。


 ミアはしばらく黙っていた。


 それから、小さく言った。


「私も、お父さん置いてきた」


 ユノは彼女を見る。


「心配してると思う。怒ってると思う。たぶん今頃、工房で工具落としながらうろうろしてる」


「想像できるな」


「でしょ」


 ミアは少し笑った。


 でも目は寂しそうだった。


「でも、帰るために進んでるんだって思うことにしてる」


「帰るために」


「うん。ここで引き返しても、星喰いが止まらなかったら結局ルグナもフェルカも消える。だから遠くへ進むのは、遠ざかるためじゃなくて、帰るため」


 ユノはその言葉を心の中で繰り返した。


 遠ざかるためではなく、帰るため。


 少しだけ胸が軽くなった。


「ミアって、たまにいいこと言うよな」


「たまにって何!」


「褒めてる」


「絶対褒めてない!」


 ミアが怒った顔をする。


 その顔は、ルグナにいた頃と同じだった。


 ユノはそれを見て、安心した。


 この旅の中でも、変わらず残っているものがある。


 リゼが静かに言った。


「帰る場所があるのは、強いことよ」


 二人はリゼを見る。


 彼女は王城を見つめたまま続けた。


「私は、目覚めた時には何も残っていなかった。魔女の国も、家も、姉様も、仲間も。帰る場所がない旅は、どこまで歩いても終わらない」


「リゼ……」


「だから、あなたたちは帰ることを忘れない方がいい」


 リゼの声は淡々としていた。


 けれど、その奥には深い寂しさがあった。


 ユノは手首の銀の輪に触れる。


「リゼの帰る場所も作ればいい」


 リゼが振り返った。


「簡単に言うのね」


「難しく言っても仕方ないだろ」


「またそれ」


「ルグナに来ればいい」


 ユノは言った。


「全部終わったら。ガルドの家なら、たぶん一人くらい増えても大丈夫だし」


「一人くらい?」


「いや、たぶん怒られるけど。最終的には許すと思う」


 ミアが横で頷く。


「ガルドさんなら絶対文句言いながら面倒見るよ」


「そうなの?」


 リゼが少し戸惑った顔をする。


 ユノは頷いた。


「そういう人だ」


 リゼはしばらく黙っていた。


 そして、ほんの少しだけ目を伏せた。


「帰る場所……」


 その言葉を初めて口にするような声だった。


 灰の道を進む。


 途中、崩れた広場に出た。


 中央には枯れた噴水があり、その周りに子ども用の木馬や壊れた玩具が散らばっている。


 かつては子どもたちが遊ぶ場所だったのだろう。


 ミアが壊れた木馬を見つめる。


「ここも、誰かの故郷だったんだね」


「ああ」


 ユノは灰を踏みしめた。


 ルグナだけではない。


 フェルカだけでもない。


 ここも誰かの帰る場所だった。


 それを灰にしたのは、星喰いだけではない。


 恐怖に負けた人間たち。


 魔女を悪者にして、罪を押しつけた王国。


 そして、今も忘却を救いだと言う黒い羽根の者。


 ユノの胸に怒りが灯る。


 だが、星灯りの剣を思い出した。


 怒りで剣を振るうな。


 リゼの言葉。


 ユノは深く息を吸った。


 怒りはある。


 でも、それに呑まれてはいけない。


 自分が斬るのは、人ではなく忘却だ。


 その時、星針盤が震えた。


 ユノは足を止める。


「反応してる」


 リゼが近づく。


「王城の方向?」


「いや……少し横だ」


 針は王城ではなく、広場の西側にある崩れた家並みを指していた。


 そこには半分崩れた小さな礼拝堂があった。


 フェルカの礼拝堂とは違う。


 星白王国の紋章ではなく、炭鉱夫が使うような古いランタンの印が刻まれている。


「これ……」


 ユノは眉をひそめた。


 見覚えがある。


 ルグナの古い炭鉱組合の印に似ている。


「なんで灰の王国に炭鉱の印が?」


 ミアも驚いた顔をする。


「ルグナのに似てる」


 リゼが礼拝堂の壁を調べる。


「ここは旅人や労働者のための祈り場だったみたいね。星白王国には各地から鉱石が運ばれていたから、ルグナの前身となる鉱山集落と関係があったのかもしれない」


「ルグナの前身……」


 ユノは胸がざわついた。


 父の手帳がまた淡く光る。


 開くと、白紙だったページに文字が浮かび上がっていた。


 ――灰の王国に、ルグナの名はない。

 ――だが、ルグナの火はここから始まった。

 ――忘れるな。

 ――故郷は、地図の場所だけではない。

 ――誰かが守ろうとした記憶の積み重なりだ。


 ユノは息を呑んだ。


 父の言葉なのか。


 それとも、手帳に残された星の記憶なのか。


 分からない。


 けれど、その文字は確かにユノへ向けられていた。


 礼拝堂の奥へ入ると、小さな祭壇があった。


 祭壇には古いランタンが置かれている。


 錆びていて、火は入っていない。


 けれど星針盤はそのランタンを指していた。


「これが反応してるのか」


 ユノがランタンに触れると、星涙石が淡く光った。


 次の瞬間、礼拝堂の中に幻が現れた。


 炭鉱夫たちだった。


 煤けた顔の男たちが、王都の片隅で膝をつき、ランタンに火を灯している。


 その中に、若い男がいた。


 ユノは息を止めた。


 父ではない。


 でも似ている。


 どこかユノの父に似た顔立ちの男。


 その男は、仲間たちに向かって言った。


「俺たちは王都のために石を掘った。城を作る石も、塔を動かす歯車の鉱石も、全部山から運んだ」


 別の男が答える。


「だが王は、俺たちの村の名を記録しない」


「ああ」


 若い男はランタンの火を見つめる。


「なら俺たちで残す。山の名を。故郷の名を。いつかこの火を持って帰る」


 幻の中の男は、壁に文字を刻んだ。


 ――ルグナ。


 ユノの胸が震えた。


 ルグナ。


 そこに、確かに故郷の名前があった。


 灰の王国の片隅に。


 千年前から。


 ルグナはただの炭鉱町ではなかった。


 この王国の歴史にも、星の戦いにも、ずっと前から繋がっていた。


 幻の男は続けた。


「名を記録されなくても、俺たちはいる。俺たちの掘った石で、誰かが屋根を作り、道を作り、明日を作る。なら、それでいい」


 ミアが小さく言った。


「ルグナの人っぽいね」


「頑固だな」


 ユノは少し笑った。


 幻は薄れていく。


 最後に、若い炭鉱夫はランタンを祭壇へ置いた。


「いつか故郷が忘れられそうになった時、この火が道しるべになるように」


 幻が消えた。


 礼拝堂には古いランタンだけが残る。


 だが、その中に小さな銀色の火が灯っていた。


 リゼが目を見開く。


「記憶灯……」


「何だ?」


「故郷の記憶を宿す灯火。星涙石ほど強くないけれど、人や場所を繋ぎ止める力がある」


 ユノはランタンを見つめた。


 小さな火。


 ルグナの火。


 千年前の炭鉱夫たちが残した、故郷の証。


「これ、持っていけるか?」


 リゼは頷いた。


「持っていける。でも注意して。火を消さないように」


 ミアがランタンを手に取った。


「私が持つ」


「いいのか?」


「こういうの、私の役目でしょ」


 彼女は少し誇らしげに笑った。


「機械じゃないけど、火を守るくらいできる」


 ユノは頷いた。


「頼む」


 ランタンの銀火は、ミアの手の中で静かに揺れていた。


 その光を見ていると、採掘塔の音が聞こえるような気がした。


 ゴウン、ゴウン、ゴウン。


 ルグナの鼓動。


 遠く離れているのに、ここに繋がっている。


 置いてきたのではない。


 持ってきていたのだ。


 自分の中に。


 ミアの中に。


 父の手帳に。


 この小さな火に。


 ユノは胸の奥が温かくなった。


「帰るために進む、か」


 ミアが振り返る。


「何?」


「いや。そうだなって思っただけ」


 リゼが静かに言う。


「故郷は、場所だけではないのね」


「ああ」


 ユノはランタンの火を見つめた。


「名前を覚えている限り、繋がってる」


 その時、礼拝堂の外で物音がした。


 三人は身構える。


 星灯りの剣がユノの手首でかすかに光る。


 外へ出ると、広場の向こうに人影が立っていた。


 黒い外套ではない。


 灰色の服を着た小さな人影。


 子どもだった。


 十歳くらいの少年。


 顔は煤で汚れ、手には壊れた木剣を持っている。


 少年は三人を見ると、驚いたように後ずさった。


「待って!」


 ユノが声をかける。


 少年は逃げようとした。


 だが数歩走ったところで転び、咳き込んだ。


 ミアが駆け寄る。


「大丈夫?」


「来るな!」


 少年は木剣を振り上げた。


 その声は震えている。


「お前らも王の兵か!」


「違う」


 ユノは両手を上げた。


「俺たちは旅人だ」


「嘘だ! 旅人なんてここには来ない!」


 リゼが少年をじっと見つめる。


「あなた、生きているの?」


 少年は顔をしかめた。


「何だよそれ」


 ユノも気づいた。


 少年には影がある。


 声も、息もある。


 幻ではない。


 この灰の王国で、初めて出会う生きた人間だった。


「名前は?」


 ユノが聞くと、少年は警戒したまま黙った。


「名前を聞いてるだけだ」


「名前を教えたら、奪われる」


 少年の言葉に、三人は息を呑んだ。


 この少年は知っている。


 名前を奪われる恐怖を。


 ユノはゆっくり言った。


「俺はユノ」


 ミアが続ける。


「ミア」


 リゼも静かに言う。


「リゼ」


 少年は三人を見つめた。


 少しだけ警戒が緩む。


 だがまだ木剣を下ろさない。


「……カイ」


 小さな声だった。


「俺は、カイ」


 ユノは頷いた。


「カイ。ここで何をしてるんだ」


 カイは唇を噛んだ。


「故郷を探してる」


 ユノの胸がざわつく。


「故郷?」


「俺の村があったんだ。この王国の近くに。でも誰も覚えてない。地図にもない。父さんも母さんも、村の名前も、みんな消えた」


 カイは木剣を握りしめた。


「でも俺は覚えてる。絶対あった。だから探してる」


 ユノは言葉を失った。


 カイは、もうひとりのユノかもしれなかった。


 故郷を消され、それでも覚えている少年。


 リゼが低く言う。


「星喰いの空白に巻き込まれた生存者ね」


「助けられるか?」


 ユノが聞くと、リゼは少し考えた。


「彼が覚えている名前が残っていれば」


 カイは叫ぶ。


「助けなんかいらない!」


「でも一人じゃ危ない」


「大人はみんなそう言う!」


 カイの目に涙が浮かぶ。


「でも誰も信じなかった! 村があったって言っても、嘘つきって言われた! 父さんも母さんもいたって言っても、そんな人知らないって!」


 ユノは胸が痛んだ。


 セナ。


 フェルカの人々。


 ノア。


 同じ痛みが、ここにもある。


 ユノは一歩近づいた。


「俺は信じる」


 カイが固まる。


「俺も、消えた名前を見てきた。故郷が消えかけた。だから信じる」


「……本当に?」


「ああ」


「嘘じゃない?」


「嘘じゃない」


 カイの木剣が少し下がる。


 ユノは続けた。


「カイの村の名前、覚えてるか?」


 カイは口を開いた。


 だが、声が出ない。


 顔が青ざめる。


「……あれ」


 彼は自分の喉を押さえた。


「覚えてた。さっきまで、覚えてたのに」


 カイの目から涙が落ちる。


「嫌だ……消えるな……!」


 その瞬間、広場の灰が渦を巻いた。


 白い空白が地面に走る。


 リゼが叫ぶ。


「名前が消えかけている!」


 カイの足元が透け始める。


 ユノは星灯りの剣を呼び出した。


 右手首の模様が光り、銀色の剣が手の中に現れる。


 ミアがランタンを抱え、叫んだ。


「ユノ!」


「分かってる!」


 ユノはカイの前へ走った。


 空白は地面から伸びる白い手のように、少年の足を掴もうとしている。


 ユノは剣を振り下ろした。


 初めての一撃。


 刃は空白を斬った。


 音はなかった。


 けれど、斬られた白い闇から記憶が流れ込んできた。


 小さな村。


 山のふもと。


 赤い屋根。


 父の笑い声。


 母の歌。


 村の名。


 ――ネリオ。


 ユノは叫んだ。


「ネリオ!」


 カイの身体が光る。


「ネリオ……!」


 カイが泣きながら叫んだ。


「俺の村は、ネリオ!」


 空白が弾けた。


 カイの足元が戻る。


 ユノは膝をついた。


 頭の中に、カイの村の記憶が流れ込んでいる。


 知らない母の歌。


 知らない父の手。


 知らない畑の匂い。


 知らないはずなのに、胸が痛いほど懐かしい。


 これが星灯りの剣の代償。


 斬った忘却の奥にある記憶を、背負うこと。


「ユノ!」


 リゼが駆け寄る。


 銀の輪が強く光っている。


「意識を保って!」


「……俺は、ユノ」


「そう」


「カイの村は、ネリオ」


「そうよ」


「忘れない」


 リゼはユノの肩を支えた。


「今はそれ以上抱えないで」


 ミアも駆け寄る。


 ランタンの銀火が揺れていた。


 その光を浴びると、ユノの頭の痛みが少し和らいだ。


「この火……」


 リゼが驚いたように見る。


「記憶灯が、ユノの中の記憶を安定させている」


「じゃあ持ってきて正解だったね」


 ミアは必死に笑った。


 カイは地面に座り込んで泣いていた。


「ネリオ……父さん……母さん……」


 ユノは息を整えながら言った。


「カイ。一緒に来るか?」


 カイは涙の顔を上げる。


「え?」


「王城に行く。危ないけど、そこに手がかりがあるかもしれない。ネリオが消えた理由も」


「……」


「無理にとは言わない」


 カイは木剣を握った。


 震えている。


 怖いのだ。


 当然だった。


 でもその目には、消えた故郷を探す強い光があった。


「行く」


 カイは言った。


「俺も行く。ネリオを取り戻したい」


 ユノは頷いた。


 ミアが少し困った顔をする。


「また増えたね」


「だな」


「ガルドさんに何て説明するの?」


「帰ってから考える」


「絶対怒られるよ」


「だろうな」


 リゼはカイを見つめていた。


「カイ。名前を忘れそうになったら、必ず言いなさい」


「分かった」


「それと、ユノから離れすぎないで」


「なんで?」


「彼は無茶をするけれど、名前を呼ぶのは得意だから」


 カイは不思議そうにユノを見た。


 ユノは苦笑した。


「褒めてるのか?」


「褒めているわ」


「本当かな」


 灰の王国の道は、まだ王城へ続いている。


 そこへ向かう人数は三人から四人になった。


 ユノ。

 ミア。

 リゼ。

 カイ。


 そして、記憶灯に宿るルグナの火。


 置いてきた故郷は、遠くにあるだけではなかった。


 ユノの胸の中に。


 ミアの手の中に。


 カイの涙の中に。


 それぞれの故郷が、まだ消えずに灯っている。


 ユノは歩き出した。


 肩の痛みも、頭の重さも残っている。


 けれど足は止まらなかった。


 帰るために進む。


 守るために離れる。


 忘れないために、名前を呼ぶ。


 灰の王国の空に星は見えない。


 それでもユノには、ルグナの採掘塔の音が聞こえる気がした。


 ゴウン、ゴウン、ゴウン。


 遠い故郷が、進めと背中を押しているようだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 このページでは、ユノが“置いてきた故郷”と向き合いました。


 ルグナを守るために旅立ったはずなのに、離れれば離れるほど不安になる。

 でもミアの言葉通り、遠ざかることは逃げることではなく、帰るために進むことでもあります。


 灰の王国で見つけたルグナの記憶灯。

 千年前から残されていた炭鉱夫たちの火は、ユノに故郷との繋がりを思い出させました。


 そして新たに出会った少年・カイ。


 彼もまた、星喰いによって故郷を奪われたひとりです。

 消えかけた村の名“ネリオ”を取り戻したことで、ユノは星灯りの剣の力と代償を実感します。


 次のページは『空白地帯へ』です。

 ユノたちはカイを連れて、灰の王国のさらに奥、地図にも記憶にも残らない“空白地帯”へ足を踏み入れます。

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