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鄙島人形供養の段  作者: さわみずのあん


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6/7

六段目




「後ろを向いても、よい、ぞよ」

「よろしいのですか?」

「いや、駄目だ福島。呪われるぞ」

「ええっ、それは、ちょっと」

「宗一郎。巫山戯るでない」

「『お雛様』、私は総二です」

「およ、そうであったか、最近物覚えが悪うで。すまなんだ」

「あのー、すいません。後ろを向いても?」




 鄙島の、棚田と段々畑を何段も越えて、頂上。ほんの少し、原生林が残っていて。

 その中に、島のみんなから隠されているように、小さな屋敷があった。

 屋敷に入ると、一階はほとんど廃墟であるように思えた。ただ、壁や床の木の色を見るに、埃は積もってなく、掃除だけは、きちんとされていくようだった。

 床が抜けるんじゃないかと、日向さんが踏んだ、廊下の部分を覚え、その箇所のみを歩くようにし、屋敷を、日向さんの後に進む。

 屋敷の中央にある階段をあがる。踊り場を左に曲がり、残り数段の階段の先。

 暗くても分かるくらいに赤い、毛氈が敷かれている。

 一歩一歩出すたびに、柔毛が足裏をひしひしと掴む。

 生きているんじゃないかと思った。

 一番奥の部屋、ガラス付き障子戸から、ぼんやりと光が漏れていて、そこだけ一層赤い。

「後ろを向け、福山」

 日向さんがそう言うので、障子に背を向ける。

 しゃんっと、蠟がよく引いてあるのか、快い音を立て、日向さんは、障子を引いた。

 僕は立ったまま。日向さんは部屋に入る。

 すだれ? いや、御簾?

 竹の巻き上がる音。夏の風の音。

 そうして、感じる、夕立の雰囲気。

 蒸す蒸すとす、湿り気を帯びた、瘴気。

「後ろを向いても、よい、ぞよ」




「あのー、すいません。後ろを向いても?」

「構わぬと言え、壮一」

「『お雛様』、私は総二です」

「おお、そうであった、そうであった。おお、与一かえ、大きくなって」

「前を向け、福山」

「い、いいんですか?」

「構わねえ」

 後ろの正面を振り向く。部屋は、奥に向かって上がる、階段状になっていて、廊下と同じ、赤い毛氈が綺麗に敷かれている。

 部屋の最上段に、天蓋から、落ちている、大きな御簾があって、その横には日向さんが立っていた。

 御簾の中、分厚い正方形の畳が一畳。

 その上に、背筋をぴんと正座している。

 華美、絢爛。目の眩むような着物の上。

 一層輝き、浮かぶ。真っ白な顔。

 しかし。

 周囲が、どれほど眩しかろうと、僕は目を瞑ること、逸らすことができなかった。

 真っ黒な瞳。

「後ろを向いても、よい。とは言うたが。面を上げても、よい。とは、言うたか? のう、総二?」

 僕は慌てて、部屋の外、廊下で正座をし、敷居を超えぬよう頭を下げ、固く目を閉じた。

 閉じた視界の黒の中でも、黒黒と、あの、瞳が僕を見つめていた。

「仰りました。『お雛様』」

「そうであったか、総二。物覚えが悪うで。そうか、そうじゃった。もう、そんな時期か。忘れておった。なんで、忘れておったのかのう。うう。そうか、そうじゃった。宗一郎は、もう居らぬか。壮一ももう、居らぬか。一千代も。一松も。一之助も。みな逝ったか」

「はい」

「そうか。して、この者が、か?」

「片付けを、いたします」

「面を上げ」

 僕は頭を下げ続けた。

「面を上げい」

「はっ、失礼、いたします」

 僕は目を開け、顔を上げる。

 『お雛様』と、目と目とが合う。

「お前が……。わらの子らを……」

 黒の上に、浮かぶ潤み。

 殺しにきました。

 とは言えなかった。

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