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鄙島人形供養の段  作者: さわみずのあん


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7/7

七段目

 お仕事は、いとも簡単に終わった。

 後ろから、波の音が聞こえる。

 僕は砂浜にいた。

 目の前、茶色く乾いた草地の上に、集合写真を撮るための、仮設階段が建てられていた。

「ふくしゃー」

 ひな壇に島民全員が並んでいる。そのうちの一人、与一が僕を呼ぶ。

 僕は大きく手を振った。

 ばいばい。に似ているなと思った。

 ひな壇の一番上の『お雛様』は目を瞑っていた。隣には、日向さんが立っていた。

「それじゃー、僕がー」

 ひな壇から離れ、カメラを模した機械の前にいる僕は、大きな声で、島民に話す。

「僕がー、あかりをつけましょー、と言うので、みなさんはー、ぼんぼりにー。でお願いします」

「ぼんぼりにー」

「まだ、早いぞー、与一ー」

 日向さんが、壇の上から、与一を注意する。

 他の者たちも、笑っている。

 僕らと、何が違うというのだろうか。

「それじゃー、いきますよー」

 彼らを殺して、僕たちは生きる。

「あかりをつけましょー」

「「「「ぼんぼりにー」」」」

 僕が、あかりをつけたのは、爆弾だ。

 大学で、研究していた、地震誘発爆弾、ジライヤ。

 プレートの歪みが溜まりすぎてしまうと、大地震が起きてしまう。その歪みを、少しのずれ。要は、小さな地震を起こすことで、回避するための爆弾だ。

 それを、僕は、ひな壇の下に埋めた。

 エネルギーの単一指向性は、空に向けて。

 なるべくなら、一瞬で。苦しむことのないように。

 僕は、砂を深く掘って作って塹壕に身を潜める。

 風圧と熱、衝撃。

 キーンと鳴る、耳に、砂の降る音。

 僕は、屈んで、丸まって。

 このまま、埋められてしまいたかった。

 波の音しかしなくなった。

 僕は、ゆっくりと塹壕から這い出た。

 ひな壇があった場所に、50cm程の丸い窪みができていた。

 ちらし寿司は、もう。食べられないな。

「はよう、わらを、上げい」

 窪みの真ん中に、『お雛様』が目を瞑っていて、立っていた。




 鄙島の、棚田と段々畑を何段も越えて、頂上。小さな屋敷の二階から、僕と、『お雛様』は、島を眺めていた。

 僕が仕事を終えた後、『外の人』がやってきて、島民だったものを、島にまいて、火をつけた。

 火舐。

 という、焼畑のようなものだと、僕は説明を受けた。

 島民。島に住まうもの。

 『お雛様』が産んだ『人形』。『雛人形』の生命エネルギーを、土地に返すための儀式だと。

 島全体が、黒く焦げ、喪に服しているようだった。

「そう、気を落とすでない。おぬしは、人を殺したわけではないのだ。人間でなく、人の形をした、『人形』を片付けただけなのじゃ」

「無理ですよ。だって、人の形をし、人と同じように考え、人と同じように感じる。それは、もう、人ではないのですか?」

「死なぬ」

「死なないだけで、殺されなきゃいけないなんて」

「死なぬ命は、繋がらぬ。わらは子を産む。一人で、一人を産む。わらの子も産む。二人で、一人を産む。増えて殖える。病気もせぬ。余程のことがない限り、死なぬ。命を奪い、奪い、奪い。そのくせ、『雛人形』だけは命を奪えぬ。そういう種なのだ。種の中では、自殺も他殺もできず、種の外から、簒奪するがのみ」

「それでも、」

「同情でも、しておるのかえ。ひっひっひ。違うぞ。わらは。わらの子が死んだことなど、これっぽっちも悲しんでおらん。わらは、わらが、生きておることを喜んでおる。わらが生きておれば、また産めば良い。三人官女や五人囃子。お内裏が居なくとも。『お雛様』が居れば、『雛人形』なのだからのう」

「あなたが、それで。いや、すいません。分かりました、分かりませんけれども」

「分からぬこと、ばかりじゃ。長い間、生きておってもな。さて、そろそろ別れの時じゃの」

「そうですね。最後に、これを。あなたに渡しておきたくて。『お雛様』。お片付けの時、ずっと、目を瞑っていたでしょう?」

「おお、これは、懐かしいのう。ふふ、今日のことだいうのに。なぜ、こんなにも懐かしいのかの。ほほ、本当に、『雛人形』みたいじゃの」

 僕が片付けてしまった。

 『雛人形』たちの写真を『お雛様』に渡した。

 『お雛様』が見ることのできない。

 横顔でも、後ろ姿でもない。

 『雛人形』たちの笑顔がそこには、写っていた。

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