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鄙島人形供養の段  作者: さわみずのあん


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五段目




 日向さんから聞いた、仕事の話と、死後の話。

 胃が重い。山盛りポテトフライでも、酒の飲み過ぎのせいでもない。

 荷が、重い。

 明らかに意気消沈している僕を励ますように、日向さんは。

 この仕事で、死ぬことになっている日向さんは、

「おっ、よっ、きた来たキタ。来ましたよ。トリの降臨。とり釜飯ー。ほらほら、よそってあげよう」

 と、飲んでもないのに、上機嫌な装い。

 僕も精一杯、元気を装った。




 三月

 Nヶ崎の辛草半島から、日向さんの運転する小型船に乗って、僕は鄙島に向かっていた。

「船酔い。大丈夫? 福山君?」

「大丈夫ですよ、吐き気は、ずっとありますけれど、これは、船酔いじゃないです」

「そう? 帰りは大丈夫? ちゃんとボート運転できる?」

「もう、何度も運転してますから、大丈夫でしょう。それに僕が仕事を成し遂げたか、確認に来るんでしょ? 島に。『外の人』が、」

「『雛人形』が、きちんと。片づけられたか、ね」

「ひゅっ。日向さんはっ。それで、それで良いんですか!」

「雛人形ってさ、三人官女や五人囃子。最悪、お内裏様が居なくたってさ。『お雛様』。が居れば、『雛人形』なのさ」

「……それが。生きるということですか?」

「それが、生きるということさ。福山」

「言い切りますね」

「いいや繋がりさ」

 船体が軽くホップして、一瞬ふわと、体が浮く。船のスピードが緩く、緩く。僕の体は、徐々に重く重く。

「ほら。もう、着くぞ。鄙島だ」

 小さな小さな島なのに。

 立派な棚田と、段々畑が何段もある鄙島。

 九月の夏休みの時に来た時と違い、今は、冬の色をしていた。


 波止場には、島の子供達が来ていた。

 夏には、気がつかなかった。

 離島であるのに、多すぎる子供達。

「「「「そーにー。ふくしゃー」」」」

 子供のうち、一人の男の子が、まだ、停止しきっていない、船に飛び乗ってくる。

 船体が大きく傾き、船の左の頭か桟橋にぶつかる。

「こらっ、与一。あぶねーだろーが」

「ごめんよ、そーにー。なあなあ、ふくしゃー。あそぼあそぼあそぼ」

「いや、僕は仕事があるから。ねえ、日向さん。っあっ。いや。どうしようかな」

「行ってやれよ、ふくしゃ。途中までの段取りは、こっちですましておくよ」

「やった、そーにー。ふくしゃ。こっちこっち」

 遊びをせんとや生まれけむ。戯れせんとや生まれけん。

 遊ぶ子供の声聞けば、我が身さへこそ揺がるれ。

 揺れる船。甲板から、僕は飛び降りた。

「何して、遊ぶんだ? 与一」

 僕は知っているのに、そう聞く。

「「「「かごめかごめ」」」」

 初めて島に来たとき。

 自己紹介のレクリエーションの一種だと思った。

 でも、その次に島に来たときも、その次に島に来たときも。

 夏休みのまだ、暑い夏の日にも。

 彼らは、遊ぶ。

 かごめかごめを。

 『お雛様』ができる、数少ない遊びだから。


「「「「かーごめかごめ。かーごの中のとーりーはー、いーついーつでーやあるー。後ろの正面、だーあれー」」」」

「うーん、誰だろうなー。与一じゃないな、大きい影を感じない。えっ? ずるなんかしてないさ。感じるんだ。三咲ちゃん、違うな、左の方から、くすくす笑いが聞こえたぞ。美七ちゃんと、二葉ちゃんと笑ってるでしょ。

うーん分からないなあ。ちょっと飛んでみてくれよ。うん、やっぱり大きいぞ。雄一郎。八夏。岸二。いや、彦六も、うんと背伸びてたからな。えー、」

 僕は鬼。目を隠す鬼。

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